「がんになった私にしか、できないことがある」31歳の女性報道記者が手にした2枚目の名刺

2015.7/3

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乳がんがもたらした絶望と苦しみ、そして病室での決意

日本人の2人に1人はがんになるといわれる時代。
それでも、24歳の女性にとってがんの宣告はあまりにも早すぎました。
楽しかった日々を一瞬で打ち壊した、闘病生活。
「がんになってよかった」と心から思える日を掴みとるため、チャレンジを続ける鈴木美穂さんの2枚目の名刺に込められた想いに迫ります。

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ポジティブだった私が、がんでうつ状態に

ーー本企画は「2枚目の名刺=2つ目の顔」を持つ方々にお話を聞く企画なのですが、鈴木さんの1枚目、そして2枚目の名刺の活動内容を教えてください

1枚目は、日本テレビの報道記者です。去年の6月からは、厚生労働省を担当しています。2枚目はNPO法人「maggie's tokyo」の共同代表理事です。「maggie's tokyo」は、がん患者やその家族、友人が訪れ、落ちついて過ごせる施設「マギーズがんケアリングセンター」を設立するプロジェクトです。クラウドファンディングやホームページを経由して約3500万円のご寄付をいただき、今年の11月頃には着工して、来年年明けくらいにテストでオープンする予定です。いまは土地の整備に入り、建築についての会議を重ねていて、もう少しで具体的な設計が決まるかな、というところです。

ーー「maggie's tokyo」の活動にいたるまで、どのような経緯を辿られたのでしょう?

私って、もともとすごくプラス思考でポジティブなタイプなんですね。そんな私でも、がんになったことで、うつ状態になるほど精神的に不安定になって。こんなに死にたくなるほど心を乱されるのってなぜなんだろうと、闘病中にすごく考えていたんです。
そのときに、自分のような思いをする人を減らしたいなという気持ちが芽生え、元気になったらこの経験を絶対活かそうという想いが、がんと闘う原動力になりました。

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若年性がん患者の仲間とともに動き始める

それから闘病を経て、仕事に復帰するくらいのタイミングに、mixiで若年性がん患者の仲間を探し、ともに「STAND UP!!」というフリーペーパーを2010年春に3万部発行し、全国のがん拠点病院に置いてもらいました。35歳までにがんになった人の体験談をはじめ、闘病中に癒やされた本などを紹介する内容にして、ネガティブになりそうな要素は入れないように。いまでも、「STAND UP!!」は、年に1回発行しています。その3年後には、がん患者でも安心して参加できるヨガクラスや料理教室、習字教室などを開催する「Cue!」をスタートさせました。
そうした活動もあってか、2014年3月、世界のがん患者が集まる国際会議に参加する機会をいただきました。その際に、海外には「マギーズセンター」という、がん患者が病院以外に安らげる施設の存在があることを知り、「これこそがまさに闘病中の自分が欲しかったものだ」と思ったんです。
日本にも造りたいと思い、帰国後すぐに、日本でマギーズセンターを建てるべく活動していた秋山正子さんに会いに行き直談判。2014年5月「maggie's tokyo」プロジェクトを開始するに至ります。

ーー「maggie's tokyo」での活動を通して、本業である報道記者の仕事への意識に変化はありましたか?

私は今年で入社10年目なのですが、去年の6月まではその時々のニュースを担当していたんです。震災、教育、政治、選挙などさまざまな分野を取材して、いち記者としてキャリアを積んでいました。
でも、もともと入社を志望した動機が、「社会的に弱い立場の人たちが生きやすくなる」、そんなドキュメンタリーを作りたいというものでした。なのに、全然たどり着けていないなという感じで。「私が取材したいのは別のところなのに」と思っていました。

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会社を取るか、NPOの活動を取るか…

キャリアの面談の時など、折りに触れて、元々の志望にシフトしていきたいと思い、上司に相談したことがありました。そのとき、「社会的に弱い立場に置かれている人たちのために何か伝えたいと思うんだったら、国の仕組みや法律、この国の成り立ちとか、そういう根本をまず勉強しないとできないでしょ」と言われたんです。その通りだなと思って、いろいろな部門を担当させてもらえることはありがたい経験だったと感じています。

ーー「maggie's tokyo」での活動が本格化していく中で、どう本業とのバランスを取っていったんですか?

会社に本業の活動をしっかりと認めてもらったのは、「maggie's tokyo」でお金を集めることになり、NPO法人にしなくてはいけなくなったのがきっかけでした。もともと会社には活動のことは伝えていましたが、趣味程度の認識。しかし、NPO法人を立ち上げ、お金を集めるとなれば、動機となった自身の闘病経験についても語りながら活動していきたいと考え、いよいよ腹をくくって、会社に話をしに行ったんです。
結果は、「前例がないから厳しいかな」と…。また、秋山さんに代表をやってもらって、私は名前を出さずに裏方に徹することはできないのかと提案されました。私が秋山さんをかなり巻き込んでいたところがあったし、お金もからんでくるので、その責任を秋山さんだけに押しつけてというのは厳しいなと。
何度も考え、プロジェクトメンバーとも相談しましたが、医療者側と患者側、双方がいて初めて成り立つプロジェクトなので、共同代表がベストだというのが最終的な結論でした。

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まだやるべきことがある。自分だからこそできることがある

そこから再度、会社と相談する際に、「日本テレビにいることで、どうしても共同代表を諦めないといけないなら、会社を諦めます」と伝えました。恐らくそれで本当に真剣なんだなというのを会社に分かってもらえて、認めてもらえたんです。
その話をした翌月には、年に1度の大きな異動で、ずっと希望していた医療などの取材を担う厚生労働省担当にさせてもらいました。たまたまなのか、意図があったのかはわかりませんが…「本業に支障がない」だけじゃなくて、「本業にもきっといい相乗効果があるようなやりかたができるよね」ということだと、ありがたく受け取りました。それが去年の6月ですね。

ーーお話しを聞いていると、強い使命感を持った方だなという印象ですが、その使命感はどこから湧いてくるのでしょうか?

闘病中に抗がん剤を投与され意識朦朧としていて、副作用のせいで精神的にも不安定な時期に、毎晩のように天国へ行く夢をみていたんです。その夢のなかで、神様みたいな人が出てきて、「あなたはこの世でやるべきことがまだ残っているのに、こっちに来れないでしょ」って言うんですね。
「このまま死んじゃうのかな」って本気で思っていたときなのですが、夢のなかで天国から突き返されて。それで、自分は医療者ではないのでがんを治すことはできないけど、社会的なアプローチでがんのことを伝えることはできるんじゃないか、そのために記者になっていたんだな、くらいに思ったんです。
どん底のときがあったけれど、いつか笑って話せる時がきっとくるはずだって考えるようにしました。そこから気持ちの面も回復していったんです。そのときの、闘病をマイナスではなくプラスの経験に変えようという意識転換が、使命感につながっているのかなと思います。

ーーそして、ついに念願のドキュメンタリー制作を手掛けられたそうですね。7月4日(土)放送の「Cancer gift(キャンサーギフト)がんって、不幸ですか?」(YouTubeへリンク)では、19歳でがんの告知をされ、余命宣告を受けた山下弘子さんとともに、取材記者として鈴木さんご自身も番組に登場されているとのこと。
山下さんとの出会いと、番組を作るにいたった経緯について教えていただけますか?

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がんになったことを感謝する。そんな共通の想いを抱くふたり

厚生労働省の担当に異動してから1カ月後の7月に、友達からブログのURLが送られてきたんです。「この子、美穂と合いそうだよ」って。私は「maggie's tokyo」の活動を通して、「がんになったことを感謝して幸せに生きる」と言い続けていたのですが、そのブログでは同じことが書かれていたんです。それが山下さんでした。すぐに連絡取って連絡が取れた翌日には、山下さんがいる大阪に向かっていました。
今回の番組のきっかけは、これまで山下さんのことは、ニュース番組内で3度特集を組ませていただきましたが、そこでは描ききれなかった想いや映像をドキュメンタリーにまとめたいと思っていたので企画を提案していました。
すると、社内で新しくできたチャレンジ枠の番組を作った人が私のことを調べ、「君自身の人生がおもしろいから、君自身の想いを描いたうえで、なぜ彼女を取材するのか描くかたちでやってみないか」というご提案をいただいたんです。

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闘病中のころの自分といま、向き合ってみて

ーー番組では、鈴木さんご自身のがん告知から闘病中の映像も放送されますね。ご自身も初めて目にする映像もあったとか。

当時、会社の同僚や先輩、家族とかが、闘病中の私を撮影してくれていたんです。「元気になったら結婚式のときの映像にでも使ってね」という程度のものでしたが、気持ちが安定した状態で見れそうなタイミングがきたら全部渡すと言われていて、実際にテープを受け取ったのも闘病の5年後でした。
それでも“このテープは見ても大丈夫”、“このテープは見ちゃダメ”というのも分けられていて。今7年経っているんですけど、本当にさわりだけしか見たことがなかったんですよ。今回の番組制作にあたって、そんな貴重な映像があるなら出そうよという話になって、「見ちゃいけないよ」と言われたものまで全部見ることにしたんです。
そうしたら、本当に相当ひどい映像でした。最初、すごく気持ち悪くなってしまいましたね。自分が手術しているとき、医師から親に「状況はなかなか難しいですね」って説明されている場面や、手術した部位の映像があったり、朦朧としながら髪の毛を剃ってるような映像だったり。さらには、「もう生きていけない」と言って飛び降りようとしているところまで。

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ただ生きている、それだけで素晴らしい!

きっと私が映像を編集するなら嫌な部分は流したくないと思っちゃうかもしれなかったですが、今回は信頼する制作チームが闘病部分の映像編集をサポートしてくれたおかげで、これまで誰にも見せようと思っていなかった映像が番組内で描かれています。
まさか自分の闘病中の映像をテレビで流す日がくるとは思いもよりませんでしたが、結果的に自分が向き合って乗り越えるきっかけにもなりました。

ーー「Cancer gift(キャンサーギフト)がんって、不幸ですか?」を通して、どんなメッセージを伝えたいですか?

今がんと闘っている方にも、そうでない方にも、「見た目がどうとか、何ができるとかできないとかではなく、ただ生きている、それだけで素晴らしいことなんだ」と希望を感じてもらえたらいいなと思っています。
それを伝えるために、私自身はスッピンでテレビに出るのも嫌なのに、坊主姿まで披露しないといけないのかなって、本当に覚悟が入りましたけどね(笑)。
そんなことも含めて、たぶん人生には思いもしなかったようなことや、不意に訪れる困難がたくさんある。だけど、そうしたことをしっかり受け止めることができたら、人生の糧に変え、よりパワーアップしていける可能性があるんです。
「Cancer gift(キャンサーギフト)がんって、不幸ですか?」では、そんなパワーをお届けできたらと思っています。

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Interview/Text: 末吉陽子

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鈴木美穂

すずきみほ/NPO法人maggie’s(マギーズ) tokyo共同代表理事。若年性がん患者団体STAND UP!!発起人、Cue!代表。また日本テレビ報道記者の顔も持つ。
1983年、東京出身。日本テレビに入社して3年目の2008年5月に乳がんが見つかり、8カ月の闘病生活の後に社会復帰。テレビ局での記者の仕事を続けながら、がん患者とその家族のための場づくりに取り組んでいる。実際にmaggie's tokyoはクラウドファンディングで大きな話題を集め、見事たくさんの支援を受けることに成功し、15年NPO法人化させた。現在も様々なチャレンジを抱えた人たちが活躍できるプラットフォームづくりに力を入れている。

http://qreators.jp/qreator/suzukimiho

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