ファッションは「ハード」ではなく「ソフト」で選ぶと、もっと楽しくなる《後編》

2016.11.9

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現役・慶応義塾大学大学院生モデルであり、エシカルファッションプランナーとして活躍する鎌田安里紗さんと、ジーンズの作り手の姿に魅せられて情報発信をし、ジーンズブランドを展開するEVERY DENIMの山脇耀平さん、島田舜介さん兄弟。共通して20代前半であり、ファッションの作り手に関心を寄せる三人が、ジーンズの縫製工場や加工工場を見学し、ファッションを楽しむことや買い物の方法について語ってきました。
3回目となる後編では、買い物やファッションを楽しむための「自分のあり方」について切り込みます。

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———「エシカル」の定義って?

島田 ありちゃんとエブリデニムは今度、コラボレーションしてジーンズを作りますよね。それでありちゃんのことを人に紹介するときに、モデルでエシカルファッションプランナーという風に伝えているのですが、改めて「エシカル」とはどういう意味ですか?

鎌田 直訳すると「倫理的・道徳的」という意味ですが、自分も他者も自然も大切にするための考え方、といったイメージでいいかと思います。

私たちの日々の暮らしは、他者や自然との繋がりの上に成り立っています。日常的に意識されることは少ないかもしれませんが、自分が選択するひとつひとつの行動や物は、他者や自然に何かしらの影響を与えていますよね。

自己犠牲的でない形で、その影響をできるだけポジティブなものにすることができるのではないかと私は考えています。エシカルという言葉は、そうした自分と他者と自然が心地よく存在できるバランスを考えるきっかけを提供しているのだと思います。

山脇 「エシカル」って、服づくりにおいては自然環境よりも労働環境の話で使うことが多いのですかね?

鎌田 両方ですね。でも「エシカル」という言葉の定義って、はっきりしていないんです。フェアトレードでオーガニックじゃないものや、エコ素材を使っていて生産過程が不透明なものはどう考えるのか。国産が良くて中国産は良くないとか、天然染料が良くて化学染料が良くないというイメージもありますが、一概に、そうとは言えないですし。

島田 日本のジーンズ工場では、化学染料を使っていても排水にする段階で、飲めるくらいきれいな水にしてから流しているんです。工場に発注する企業には何のメリットもないのに、染色の機械よりも、排水処理にお金をかけていたりします。

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鎌田 そうすれば環境負荷を抑えることができますね。一口に化学染料といっても、人体に有害なものも無害なものもありますしね。

島田 僕らも、手を染料にぐわーっと浸したりしていますが、全く何にも問題ない。日本の場合には、生産者に配慮した染料を使っています。

鎌田 そうなんですね。合成染料ではなく天然染料を使うと、ジーンズが一本、7万円、8万円になってしまうと、先ほど見学に行ったニッセンさんでも教えてくれましたよね。だから環境負荷や生産者への害のない合成染料を使うというのは誠実だなと思います。
さっきのエシカルとは何かという話につながるのですが、私の今のエシカルの定義の暫定解は「生産プロセスを、誇りを持って語れるかどうか」なんです。
生産者が、その製品について誠実であればいいのかなって。そのためには、品質や、人や環境にとって何が本当に良いのかを考え続ける必要もありますが。

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———パラレルワールドの住人たちと暮らすには、個別暫定解を見つけるしかない

島田 「暫定解」という発想はおもしろいですね。

鎌田 いろいろな人に出会って、学んで、考えるなかで自分の考え方なんてどんどん変わりますから。普遍的な回答は出来ないと思っています。

これはどんなことでもそうだと思います。今、周りの人を見てもいると、全く同じ時間を生きているのに、パラレルワールドに住んでいるのかと思うほど、考えていることや見えているものが違うし、おもしろいと感じることや、価値を感じるものが人それぞれに違いますよね。だから限られた視点から何かを断定することはできない。

それに時代もどんどん変わっていきます。いいと言われることもどんどん変わっていく。だから、一般普遍解としてすべての人に、いつ何時でも当てはまるひとつの固定的な答えは見つけられなくて、個々の人がそれぞれ、そのときに最善と思うものを見つけ出していくしかないなと思うんです。
ただ、それをするには、個人に力が必要ですよね。自分の価値観を見極めて、それに基づいて判断する事が大切。これだけ情報があふれている中で、自分が何を大切にしているのかを見極めて、振り回されずに適切な情報を取りに行くのは、大切だけれどとても難しいですよね。

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———ぶれない自分はどうやって見つけるの?

鎌田 先ほど山脇さんは、「自分の大切にしていくものをちゃんと見極めていかないと、ぶれてしまう」とおっしゃいましたよね。二人とも自分の価値観を大切にしている感じがしますが、何をきっかけにそういう考え方になったのですか? 

島田 僕はもともとあまり人に影響される事がなくて。だから尊敬する人とかもいないくらいです(笑)。

鎌田 もともとぶれない人なのですね。

島田 わがままなんです。まるで、それが良いことかのように言っちゃいますけど(笑)。

山脇 僕は、そういう考え方になったのは実は最近の事です。僕はもともと自己犠牲の精神がとても強かったんです。自分が犠牲になっても、他の人が楽しければいいという考えだったんですけれど、それで結果的に迷惑をかける事になった経験があって。

さっきも言ったように、僕は2014年に大学を休学してアパレルブランドでインターンをしたのですが、その前にも3ヶ月間、あるWEB制作会社でインターンをしていたんです。そのときに、激務を自己犠牲の精神で乗り越えようとしたら精神的に辛くなって、結果的に周りの人に迷惑をかけることになってしまった。

それからは、自分の精神を健康にさせておかなくちゃいけない、自分を大切にしなくちゃ、と強く思うようになりました。それで、自分が精神的に健やかに入られるためにはどうしたらいいかを考えて、ブログを書いて、自分の価値観を自分で理解できるようにしています。

鎌田 発信をするのって、価値観や考えを整理するのにとても役立ちますよね。

山脇 そうなんです。あくまで今の時点での自分の考えでしかないですけれど。

鎌田 以前に、自分も心地よく、かつ他の人や地球環境にも配慮を持った生き方や働き方を実践していると私が感じる方々に、なぜそういう生き方ができるのかを教わるべく、インタビューをしたことがあります。

そのときに想定していたのは自己犠牲的な、社会貢献的な発想で暮らしているという答えだったのですが、10人とも徹底的に、自分が大事だと思う事をちゃんと大事にしていたんです。そのために、何が自分にとって大事なのかを深く考えていらっしゃる。みんな人間なのだから、心の底から大事だと思うことは、他の人や自然を傷つけるようなものは出てこないんですよね。

でも、たいていの人は自分が大事だと思う事があっても、「それができたら理想だけれど、実際には無理だよね」って社会のルールや経済のルールを前に諦めちゃう。結果として自分が苦しくなって、他の人に当たったりしてしまうこともあると思います。
自分が心の底から大事だと思うものを徹底的に大事にするって結構難しいですよね……。だからブログに書いたりするのはいいのかもしれませんね。

山脇 そうですね。公に発信すれば自分の発言に責任を持ちますし、それに共感して人が集まって来てくれる可能性もあります。

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———哲学不在のファッション選び

鎌田 ぶれない自分の価値観があれば、自分の価値観に合ったファッションも選べると思うのですが、お二人の周りの友達はどういう風に洋服を選んでいますか?

山脇 「こういう形の服は良いな」とか「こういう服が欲しい」という話はしますけど、「自分の価値観に合った服」というレベルで洋服の話をできる人はほとんどいませんね。そういう風に考えたほうが、ファッションも楽しいとは思います。

島田 僕も、なかなかそういう話はできていません。自分たちでブランドを展開していますし、自分のやりたい事を自分の理想的な環境でやっているからすごく楽しいし、ジーンズの生産背景を知ってほしい。作っている人を知るとジーンズはもっと楽しくなると思うのですけれど、なかなか話ができないんですよね。

鎌田 知りたいと思っていない人に一方的に話しても、ひかれてしまうし。しかも今、マスメディアに載る情報は偏っていて流行のものを安く沢山買いましょうという情報が多いです。

体がきれいに見える形や流行の色、手に入れやすさなどはファッションではもちろん重要な要素ですが、もっと思想に絡んだ要素がファッションにはあるはずなんですよね。それを取り戻したいなと思うし、そういう思想も含めてファッションを選ぶともっと楽しいんじゃないでしょうか。

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———哲学まで含めてブランドを考えたい

山脇 今度、ありちゃんとコラボレーションでジーンズを作りますが、ありちゃんの名前はジーンズに入れないことになりましたよね。さっきはデザイナーの名前をジーンズに入れることについて批判的に大げさに話してしまいましたが、でも実際には名前を入れても良いと思っているんですよ。

島田 そうですね。「鎌田安里紗」というロゴが生産現場全体を意識できるようなものであるなら、むしろ入れたほうが良いかもしれない。ただただ工場名がバーっと書いてあって誰もそれに注目してくれないような状態よりははるかに良い。

鎌田 そういうデザイナーさんも、稀にですがいますよね。「自分は素材や作り手へのリスペクトを持っていて、そこまで含めてファッションだと思っている」と発信してくれる人。そういう人であれば、逆にデザイナーさんの名前が入っているのはありがたいですね。

ただ、今回はやっぱり入れないでおきたい!  私も、別にものを売りたいわけではなくて、エブリデニムのお二人と同じで、情報をものに乗せて届けたほうが圧倒的に使い手に届くし、使い手の近くにあり続けると思っています。届けたいものは自分の名前ではなく思想だから、名前は入れなくて良いかなと思うんです。

でも、さっきニッセンさんで加工のすごい技術を見ちゃったから、検討を続けているうちに「あの技術を使って名前入れましょう」ってなっちゃったりして(笑)。

山脇 できあがったら右ひざにKAMADA、左ひざにARISAってでっかく(笑)。

鎌田 ちょっと入れたくなってきちゃった(笑)。もちろん冗談ですが、今回のジーンズは本当に、ブランドの哲学が伝わる、本当の意味でファッションの楽しさが味わえるものにしたいですね。

山脇&島田 そうしましょう。この後、さっそく打ち合わせをしませんか?

鎌田 ぜひ! 今日はおもしろい話を聞かせてくださってありがとうございました。

山脇&島田 ありがとうございました!

Interview/Text: FELIX清香
Photo: 轟佑弥

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