メディアがファッションをオカシくしてる?「買う」ことだけが正しい時代じゃない

2016.10.26

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———若者の消費離れが進んでいる

「大人たち」によってそれが「問題だ」、と言われて久しいけれど、当の本人たちはいたって冷静。「流行のものはこれ!」、「コスパの良い服」などと、一方的な情報があふれていることに違和感を感じている若者も少なくない。
今回、現役・慶応義塾大学大学院生モデルであり、エシカルファッションプランナーとして活躍する鎌田安里紗さんと、ジーンズの作り手の姿に魅せられて情報発信をし、ジーンズブランドを展開するEVERY DENIMの山脇耀平さん、島田舜介さん兄弟が対談。
共通して20代前半であり、ファッションの作り手に関心を寄せる三人が、ジーンズの縫製工場や加工工場を見学し、買い物のあり方や、ファッションを楽しむことについて語りました。今回はその前編です(全3回)。

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———スペックや勉強から入ると、一気に興味がなくなっちゃう

山脇 今日は鎌田さんにジーンズの縫製工場と加工工場を、昨日は生地を織る織布工場を見学してもらいましたよね。どうでしたか?

鎌田 とてもおもしろかったです。ジーンズはよく履きますが、どのように作られているかは見たことがなかったので、実際に見てジーンズがもっと好きになりましたし、山脇さん、島田さん兄弟がエブリデニムマガジンで作り手さんの情報を発信している気持ちがわかりました。お二人は、何がきっかけでジーンズ工場に行くようになったのですか?

島田 僕たち兄弟の父親はジーンズや革製品、ジャケットが好きで、リペアして履き続けるような人で、それをすごくかっこいいなと思いながら育ってきました。
それで、僕が偶然岡山大学に進学して、岡山の名産の一つはジーンズだという話が出るたびに、「僕、ジーンズはけっこう好きなんです。工場なども機会があれば見てみたいです」と話していたら、偶然ジーンズブランドのデザイナーと出会うことができました。
今、ものづくりに興味がある若い人が少なくなってきているらしく、そんななかで工場を見たいという僕のことをおもしろがってもらい、いろんな工場を案内してもらうことになったんです。

鎌田 最初はどんな工場に行ったのですか?

島田 最初は、加工の工場に行きました。クラッシュという、破れたジーンズの破れた部分を作る工程で、手で一点一点加工していたんです。僕も以前はクラッシュの入ったジーンズを履いていたので、「こんな風に手で一点一点作っているのか」と、ものすごく感動したんです。
ただ、それを大学の友達に話してみたりしても、全然ピンときてくれなくて…。話だけでは、僕の得た感動が全然伝わらないんですよね。

それから、工場に見にいくことが決まって、事前に少し下調べをしようと工場名などをネットで調べたのですが、どこの工場で加工しているかを調べようとしても、まったくわからないんです。
ジーンズを売るブランドさんとしたら工場を知られるのは都合が悪いということがあるのでしょうけれど、工場の存在自体が無視されているように感じて、すごく残念に感じたんです。

それで、2014年12月からインターネットで情報を出していこうと思ってエブリデニムのメディアを始めました。自己満足のためにやっていたような感じですね。

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鎌田 「自分がおもしろいと思うからやる」という姿勢はいいですね。私は中学生のときにバリに行ったことがきっかけで、貧困問題に興味を持ち、経済システムの歪みへ憤りのようなものを持ったので、今までは“問題提起型の情報発信”になりがちでした。「こんな問題があって、その解決策として、エシカル、オーガニック、フェアトレードといった選択肢があるよ」という形での情報発信をしていたんです。
でも、そういう風に発信してしまうと、受けとる側は楽しくないんですよね。今まで買ってきたものを否定されている気分になってしまうし。

それに、問題を知った人が、自分の消費行動を変えたいと思って、「私の洋服はどうやって作ったのでしょう。ちゃんと人や環境を傷つけずに取引をされていますか?」と企業の人に問い合わせしたとしても、それに完全には答えられない企業が多いのが現状です。洋服のサプライチェーンは複雑すぎて不透明な部分が多いので。そんななかで問題を指摘するだけでは何にもならない。
それよりも、作り手やものづくりの過程を知ることができるブランドさんのおもしろさや魅力を伝えたいなと、今は思っています。

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エシカルファッションプランナーとして様々な企業さんとお話をしたり、バングラデシュやネパールなどでお洋服の生産者さんに会ったりするとどんな工程を見せてもらってもとってもおもしろいんですよね。

布が糸からできているとか、糸がコットンなど、土から生えた植物からできているとか、洋服は人が作っているということは、当たり前のことですが、それを情報として知っているだけでは日々の暮らしの中で意識されることはなかなかありません。
でも、それを実際に目にすると、事実が身体に根付きます。そうすることによって、自然と物の選び方とか、暮らし方が変わるかもしれませんよね。

少なくとも、「知る」という部分はとてもおもしろい。そのおもしろさを多くの人と共有したいという気持ちは、エブリデニムと同じだなと思います。

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島田 そうなんですね。僕たちは単純におもしろいからやっていたんですけれど、ちょうど同じタイミングで2つ別の出来事がありました。一つは兄がとあるアパレルのベンチャー企業でインターンをしたことです。

山脇 2014年に僕は学生生活をもっと有意義なものにしたいと、大学を休学してインターンをしていました。そのベンチャーは全国の工場と直接取引をして商品を作る企業です。
もともと弟と同様、僕も父の影響でジーンズは好きだったのですが、雑誌で見ても値段の差ほど違いがあるようには見えないものがあって、それがずっと疑問だったんですよね。
最初はその、「差がわからないこと」は自分のせいだと思ったし、ジーンズが大好きで知識がある人などにはわかる、品質の違いがあるのだろうと思っていました。でも、インターンをしたり、弟と一緒に工場を取材したりするうちに、その値段の差は流通の過程やブランド名など、品質だけの問題ではないかもしれないと思うようになりました。

それで、生産背景の見えないものづくりに対して違和感を覚えるようになって、生産者の労働環境や、サプライチェーンの問題に関心を持つようになったんです。

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———ジーンズは世界で年間32億本も消費される、世界規模の日常着

島田 もう一つ、エブリデニムに大きな影響を与えた出来事は、「Beautiful JAPAN DENIM Exhibition」に参加させてもらったことです。「Beautiful JAPAN DENIM Exhibition」は瀬戸内にあるデニム関連の工場を繋ぐプロジェクトで、発起人で元ビッグジョンのデザイナーの吉村恒夫さんに誘ってもらったんです。

吉村さんは、人との間に垣根を作らない素晴らしい人で、どの業界にも業界内ではライバル意識もあって敵・味方に分かれるようなところがあると思うのですが、そういったところが全くなくて。その吉村さんが、ジーンズに関わる最後の仕事として企画なさったのが、このプロジェクトでした。

プロジェクトは、工場をつないで見学ツアーを行い、日本のデニム業界全体を盛り上げるというもの。展示会などでブース出展をして商品を見てもらうよりも、工場というものづくりの現場で、直接生産者さんに会ってもらうことにとても価値があると思いました。

ただ、それは途中で頓挫してしまいました。でも、プロジェクトの趣旨に共感していたからこそ、中止の決定が僕たちにはとても残念で。何かしたいと強く思ったんです。

鎌田 なるほど。作り手を知るのが楽しいからという気持ちに加えて、強い思いがあったんですね。

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山脇 そうなんです。「エブリデニム」という名前には2つの意味があります。1つには「みんな仲良く」という意味もエブリデニムという名前に込めました。デニム業界に従事する人たち全員と敵味方なくやってきたいという気持ちです。

どこの業界にもありますが、派閥だったり同業のライバル意識があったりして、必ずしも隣り合った工場の仲が良いわけではないのが、デニム業界の今の現状です。でも、隣り合っている加工工場と縫製工場が協力しあえれば、移送コストはゼロになります。産地で協力しようという思いです。

もう1つは、デニムが地球着、みんなの服だという意味です。
デニムの情報発信は、「クラッシュの入り方の正解は〜」とか「最高の色落ちは〜」とか、とかくマニアックになりがちです。
でもジーンズは世界で年間32億本も消費されるもの。国籍や人種、性別、年齢に関係なく、ファッショニスタかどうかにも関係なく着られるもの。自由に履いていいはずです。

だから、マニアのためではなく、みんなのための情報発信があってもいいと思いました。
みんなが共有できる、デニムの楽しさがあると思うんですよね。

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———今までのファッション情報に、確実に足りないもの

島田 エブリデニム着まわしの楽しさではなく、もっと根源的な楽しさを発信していきたいと思っているんです。でも、楽しさって何なんですかね。

ありちゃんとしては、買ったものを長く使うのが楽しいよと発信したいのですか?

鎌田 うーん、私は今、クローゼットに十分に洋服がありますけれど、服は欲しくなるし買うんです。別に新しいものを買っちゃいけないと思っているわけじゃないですし。

島田 「捨てないことが良いこと」というわけじゃないですしね。それだと、「クローゼットが大きい人が勝ち」みたいになってしまいますし(笑)。

鎌田 あはは。そうですね。その人のいる経済的な状況や育ってきた環境などによって価値観は違うから、一概に「これが良い価値観です」とは言い切れないけれど、今、世に出回っている情報はあまりに偏っているなとは思うんです。

「流行のものはこれ」、「このお店でこれは○○円」、「コスパの良い服」、「ファストファッションで全身コーデ」というような、流行のものを安く沢山買いましょうという情報が多すぎるし、強すぎると感じます。
そして、マスメディアに情報を乗せられるところは利益率が良くてお金が儲かっているところなんですよね。

そうじゃないところ、例えば「リペアしながら長く大切に使う」ということを売りにしているブランドや、原料まで全部どこで作っているかを明らかにして見せているブランド、利益を度外視して環境負荷を減らしているブランドなど、さまざまなブランドや取り組みがあるのに、そういうところはマスメディアにはなかなか取り上げられにくい。

情報の受け手、つまり消費者が、そのどちらもを知った上で、それぞれが自分なりの価値観に基づいて、安いものが良いとか、流行のものがいいとか、サプライチェーンが透明なものがいいとか、選択するのだったら良いと思うんです。でも、それが今、なかなかしにくい状況ですよね。

山脇 それぞれの選択肢をフェアにするって感じですかね。確かに、そこを誰かが担うべきではありますよね。

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島田 情報の受け手側、つまり消費者側でもおかしなことが起こっているなと思うんですけれど、僕は工場の方と話すことが多いので、生産者側でもおかしなことが起こっているなと思うことが多いんです。圧倒的に、売る側と作る側の力関係がおかしい。

デザイナーさんなどは、ものすごく華々しく自分の名前を商品に入れたりしているじゃないですか。
そんな大胆なことをしている一方で、工場に対しては、いかに安く作ってもらうかばかりを考えているブランドも多いのが現状です。 デザイナーは華々しく紹介されるのに、工場の人たちは名前も出ないし、決して良いとは言えない環境で、感謝されにくい仕事をしているっていうのは、本当におかしいなと思うんです。

鎌田 たしかに、もっと作り手にスポットライトが当たってもいいですよね。

山脇 デザイナーの名前が大きく書いてあるものやブランドのものが売れるからスポットライトが当たるのでしょうから、結局は消費者の認識にこの問題はつながっているんですけれど。

鎌田 そうそう。やっぱり消費者が「安ければ安いほど良いです」と言えば安くなるし、「完全に生産工程が透明でフェアじゃなければ買いません」と言えば、生産工程は透明でフェアになるんですよね。

島田 やっぱり人々の無関心が、この状況をつくっているんですよね。消費者が変わらないと、生産者が苦しみ続ける。

今、海外に生産拠点を移す企業が多いですよね。ある国に生産拠点を移して、その国の経済レベルが上がるなどしてある程度工賃が上がってくると、また別の国に生産拠点を移すというやり方です。
でも、それもそのうち限界を迎えるところまできてしまいます。

鎌田 「日本から中国、東南アジアへ、次はアフリカへ?」という感じですよね。

山脇 そうです。途上国に工場をたくさん作って、そこに低賃金で生産者を働かせています。そんなやり方では、最終的にもはやコストが見合わなくなったり、一緒にやってくれるところがなくなったりして生産現場が日本に帰ってきたら、日本の中で恐ろしい格差を作ることになってしまいます。

鎌田 そうですね。それに、技術や文化があっても、一度仕事がなくなった産業は廃れてしまって、もう取り返しがつかなくなりますよね。

山脇 そうなんです。最近はデニム業界の方が、技術や経験を買われて指導者として中国に仕事をしに行くことも増えてきました。また、工場に若い日本人はなかなか来ないけれど、日本の技術を学びに中国から研修生がたくさん来ています。
それから、さっき見てもらった工場でも、名だたるハイブランドのジーンズを作っていましたよね。ジーンズの加工も日本で初めてやったものがたくさんあって、非常に進んでいます。

日本の技術はすばらしいものがあるし、世界が注目するようなめちゃくちゃクリーンなものづくりをしているのに、日本の工場に対する取り扱いがすばらしいかというと、決してそうではありません。ちっとも光が当たっていないんです。それはもったいないし、こういったすごさを知られていないのは、消費者にとっても非常にもったいないことだ思うんですよね。

鎌田 だからエブリデニムは作り手に光を当てる情報発信をするんですね。それはとても楽しいですね。

———中編へ続く

Interview/Text: FELIX清香
Photo: 轟佑弥

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