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日本のジャーナリズムは終わってる?上杉隆が語るメディアの未来

2016.07.04

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テレビや新聞など、マスメディアへの不信感が広まっている昨今。
日本のジャーナリズムが劣化しているのではないかと懸念する声も上がる中、国際NGO国境なき記者団が4月に発表した「報道の自由度ランキング2016」では、日本は180カ国中72位と先進国としては低いランクに位置づけられたことも記憶に新しい。

たとえば昨年、特定秘密保護法なる法律が成立した際には、日本新聞協会が「政府や行政機関の運用次第で憲法が保障する取材・報道の自由が制約されかねず、民主主義の根幹である『国民の知る権利』が損なわれる恐れがある」との考えを表明したものの、それ以降反発の声は聞こえてこない。

現在の日本においてジャーナリズムは健全に機能しているのだろうか。ジャーナリズムの多様性と言論の自由を主張する、ジャーナリストの上杉隆氏に聞いた。

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熊本の震災で見えた、日本メディアの怠慢

———少し前に、ジャーナリストの安田純平さんがイスラム過激派組織に拘束されたことが報じられましたが、「自己責任だ」「危ないと分かっていて行くのはおかしい」という声が多数を占めるように思います。このことについてどのように感じられていますか?

上杉 つくづくジャーナリストっていう職業が理解されていないなと思いますね。消防士に「火事が危ないから現場に行くな」とか、警察に「危ないから犯人に近づくな」って言っているのと同じです。我々は報じるのが仕事ですから、取材現場に行くって当たり前なんです。記者たちが安全なところに逃げて許されるのは日本のメディアくらいですからね。
たとえば、湾岸戦争のときに、最初にバグダッドから消えたのは日本の大手記者クラブの記者たちだったので、外国の記者たちの笑いものになっていましたよ。

———それは雇用形態やルールといったものが、外国のジャーナリストと異なるからなのでしょうか?

上杉 外国はほとんどが契約扱いの年俸制です。でも日本は正規社員がほとんどなので、会社の意向に沿うわけです。そのため、ジャーナリストとして追及するべき場面でも保身に走りますし、本来、ジャーナリズムが忘れてはならないルールや倫理観を軽視することに疑問を持たなくなるのです。
たとえば、アメリカでは取材先で出された飲み物ひとつにしても飲めないことが多いんです。僕がニューヨークタイムズで働いていたときは、2ドルルール(≒220円/当時)があったので、スターバックスのレギュラーコーヒーはご馳走になっても、カフェラテは飲めませんでした。そして最終的にニューヨークタイムズを辞めたころには0円になっていました。

日本は取材先でご馳走になっても平気ですよね。熊本の震災でも現地入りした記者が被災者と同じような扱いを求めてガソリン車に並んでいて、反感を買っていましたが、そういうのはあり得ないことです。

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今の報道は「正しい」か「正しくない」かの二元論しか提示しない

———取材姿勢だけではなくモラルも問われているということでしょうか。その一方で、客観的かつ中立な報道を信条としているという意味では、これまでマスメディアへの信頼性はある程度担保されてきたように感じるのですが。

上杉 そもそも客観的で中立な報道と言うのは傲慢だと思います。たとえば、「外務省の発表」だと言いますが所詮は役人の主観です。それを神から降りてきた情報のごとく鵜呑みにする。しかし、絶対的に正しい情報などこの世に存在するはずもなく、報道にだって間違いはあるんです。アメリカの新聞には「op-ed(オプ・エド)」という、ある新聞記事に対して同じ新聞内で反論や異論を述べる欄が設けられています。それによって読者も情報を絶対視することに疑問を持つようになりますし、言論も活性化し、多様性と少数意見を保つというジャーナリズム本来の感覚も忘れることがなくなります。

———日本の新聞では「オプ・エド」のような欄はありませんよね。

上杉 世界のジャーナリズムでは一般的かつ重要な役割を持っている「オプ・エド」ですが、日本のメディアは「正しい」か「正しくない」かの二元論に陥っているため「オプ・エド」の利用に至っていません。日本のメディアの無謬性の怖いところは、強い人が言ったことが真実だと受け止められるようになって、独裁が生まれてしまうことです。権力の監視もジャーナリストの大切な役割ですが、多様性を示すことが、僕は最も大事だと思っています。
そういう目的もあって、最近の私の仕事はソーシャルなクリエイターとして多様性のある言論空間を作っていくことになっています。どっちかしか選べないということではなく、いろいろな見方や意見があっていいんです。よく「正しいニュースを教える」という番組のキャスターをしている某ジャーナリストがいますが、それは驕りですよね。ジャーナリストは正しい、正しくないを提示する職業ではないし、それを視聴者や市民に強いてはいけない。そうした考え方が許されている日本のメディアというのはある意味すごいと思います。

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———では、日本のメディアが変わるには何が必要でしょうか?

上杉 メディア改革に必要なのは、「バイライン(署名)」「ソース(情報源)」「クレジット(引用・参照元)」「オプ・エド(反対意見)」「コレクション(訂正欄)」ですね。これはジャーナリズムの5大原則とも言えるもので、世界でやっていないのは日本くらいなものです。あとは、記者クラブの開放です。以前、ニューヨーク・タイムズの支局長が「日本の報道は、報道ではなくて広報である」「政府の広報ですと言えばいい」と口にしていましたが、その通りだと思います。ジャーナリストやメディアは常識を常識とみるべきではない。政府の言った通りに発表するならいらないんですね。

———最近は、週刊文春がスクープを連発していることで話題になっていますよね。ネットでは「文春の報道以外は信じない」という声も上がっているようです。

上杉 文春は私が書いている10数年前からずっと元気だったんですけど、テレビなどでクレジットやソースとして使わなかったので、文春がスクープしたことを一般の人たちが知らなかっただけなんです。最近それを明らかにするようになったので、分かるようになってきたわけです。というか、朝から晩まで苦しんで取ってきたネタをクレジットやソースの表記もなくパクられるんですから、普通頭にきますよね。これまでがあまりにもレベルが低すぎたんです。

———スポンサーの問題もあって、テレビや新聞は企業に逆らえないのではないかという指摘もありますよね。

上杉 日本の新聞やテレビみたいにワンスポンサーが広告料に占める割合が大きければ、「この報道はどこどこの会社が怒るかな」とか推測してしまうのは当たり前ですよね。
たとえばニューヨーク・タイムズの場合、1社が年間出稿料の1%を超えてはいけないというルールになっていました。そのため、スポンサーが広告を止めるという話になっても経営の打撃にはならないわけです。
それに比べると企業1社につき10%ほど依存している日本のメディアは、広告のあり方に問題があると言わざるを得ないでしょう。

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ジャーナリズムの本当の役割は、多様性の担保

———さまざまな観点から改善の余地がある日本のメディアとジャーナリズムの姿勢ですが、「報道の自由度ランキング2016」では72位というランクでした。このことについてはどのような感想をお持ちでしょうか?

上杉 これは自由度というより、意識度についての調査だと捉えた方がいいと思っています。72位というランクは日本のメディアとジャーナリストに向けられた警告ではないでしょうか。日本は大卒のエリートばかりがメディアを席巻していますから、異質な意見や自分の間違いを認めるということに抵抗感があるんですね。自分たちのつまらない面子を守ることが大事なのでしょう。
逆にアメリカでは人と違う意見がないとそれこそが問題だと指摘されますからね。ニューヨーク・タイムズでは、週1回会議をやっていたんですが、皆バラバラの意見をどんどん言います。まとまらなくて当たり前というスタンスなんです。
ただ、あるときメンバーの意見がだいたい一緒だったことがありました。「まとまったじゃん!」と思っていた矢先、支局長が「ちょっと待ってくれ、本当はこういう意見があるんだ」と言い出しました。あとで理由を聞いたら、「居心地悪くて、何かが違うと思って意見を言った」と。それくらい多様性を大事にしていることが分かるいい例だと思います。

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———アメリカでは記者たちも多様性を重視して採用されているそうですね。

上杉 その通りです。僕は政治家の秘書をやっていたから、日本の政治家との人脈があるだろうと思われてニューヨーク・タイムズに雇われました。ほかにも、NASAから来た記者が宇宙開発にまつわる記事を書いていたり、銀行から来た記者が金融記事を担当していたり。ブロンクスのマフィアの巣窟から来た記者が、マフィアのことについての記事を書いているケースもありました。そんな彼らが手掛ける記事は、やはり深みがあって抜群に読ませるんです。大卒のエリートたちが、非正規職の問題や暴力団の問題について書いたって、真実味のある話なんて伝わらないんですよ。これまでも、新卒一括採用についておかしいんじゃないかと新聞社の人たちにも話をしてきたんですが、「うちじゃ無理だな」と一辺倒です。できないんじゃなくて、やろうとしないだけだと思いますけどね。

———最後に、“ジャーナリスト上杉隆”として、今後どのようなことに注力していきたいと考えていらっしゃるか教えてください。

上杉 ジャーナリストは個人としての活動は休止したので、報道のための“場”を創るクリエイター、ファウンダーとして、力を使いたいです。ただ、強いものに楯突くのが自分の性分だと思っているので、その姿勢は崩さずにいきたいですね。あとメディアが権威であるかのような風潮がありますが、そういう流れに対して棹さしていきたいですね。ジャーナリストっていつもしかめっ面で、あたかも権威的な面持ちですが、最後はユーモアを投げるくらいの余裕を持たせるくらいでありたいと思っています。

Interview/Text: 末吉陽子
Photo: 保田敬介

上杉隆

うえすぎ・たかし/株式会社 NOBORDER 代表取締役社長、「ニューズオプエド」アンカー
1968年、東京都出身。都留文科大学を卒業後、テレビ局に勤務。衆議院議員鳩山邦夫の公設秘書を務める。その後、「ニューヨークタイムズ」東京支局取材記者などを経て、フリージャーナリストに。2012年に株式会社「NOBORDER」を設立、代表取締役社長に就任するが、その活動は多岐にわたり、過去から現在まで様々な活動を続けている。

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