「閉塞感」なんて、実はないのかもしれない。これから目指すべき日本の未来とは-後編-

2016.05.23

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サミットを目前に控えた三重県の若きリーダー、鈴木英敬知事と、日本の伝統産業を新たな形で蘇らせる丸若屋代表・丸若裕俊さんの対談。

これからの日本に求められるリーダー像を話した前回に続き、地方から見つめる、21世紀における日本の可能性について話し合いました。

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これからは、物質主義が浸透していない地方に勝機がある

———前回、物質社会が切り捨ててきた「面倒」のなかに、実は衰えない価値を生み出すヒントがあり、そこを理解できるのもリーダーの資質という話が出ました。

丸若 効率や生産性を重んじる物質社会において、面倒は悪になりがちですが、こころの満足度が重んじられるようになった最近の流れを踏まえると、必ずしも面倒が悪いわけではありません。
それで言えば三重ってすごく面倒な場所じゃないですか。

鈴木 おっしゃるとおり(笑)。空港も新幹線の駅もありませんからね。
でも昨年6月にサミットが決まってから、7~12月半年間の外国人観光客の伸び率が前年比で全国1位、通年でも4位になりました。
三重以外の県は、LCCの就航によるインバウンド需要や、近隣の大都市への移動拠点、という側面もあるようですが、三重はPRが成功した結果。これは嬉しいですよね。

丸若 東京から行くにもわざわざ名古屋で乗換えなければいけないですもんね。
なかでも伊勢神宮は面倒の粋を集めたような場所じゃないですか(笑)。実際に行っても内宮と外宮は離れているし、本殿までの距離も遠いので、参拝して戻るだけでもすごい時間です。
本当は日本各地の地方はほとんど面倒な場所なんだけれども、三重は特にそれが分かりやすい。
エンターテインメントと考えれば、面倒だとお客を取りこぼすかもしれないですが、実は魅力になっているのはその面倒さなんですよね。

というのも、訪れた人間の記憶には面倒なことほど残りやすい。わざわざ長い参道を歩いて最終的に辿り着くから感動も大きいんです。
それを単純に飛行機や新幹線を通して便利にすればいい、と発想してしまうとおかしくなる。

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鈴木 時代は確実に変化しているので、過去の成功体験に引きずられないことは大切かもしれませんね。

かつて日本は高度経済成長期を経験しましたから、その再来を…と発想すると面倒を切り捨てて便利に走ることになる。当然、そこに注目すればするほど、経済的な閉塞感にも囚われます。

そうではなく、面倒なこともふくめ、そこにある価値はなんなのか、自分はどう感じるのかを一人ひとりが再確認していくことで、もっと魅力が見いだせると思いますし、意外と自分の環境が悪くない、という肯定感も出てくるのではないでしょうか。

丸若 今日お茶を飲んでいただいたとき(前編参照)、知事は『ホッとする』とおっしゃいましたよね。
脳の研究をしている知人によると、人の記憶には『中長期記憶』というものがあり、DNAレベルでの古い記憶が残されている可能性があるらしい、という研究があるそうなんです。
つまり日本人が昔から、ひと息つく時間にお茶を飲んでいた記憶があるから、お茶を飲むとなんとなくホッとする可能性がある、と。

それでいうと本来、日本人は相手の気持ちとか、自然への畏怖とか、目に見えない価値に気づくのに長けたDNAを持っているはずなんですよ。
それがいつのまにか、相手のことを考えるなんてバカらしい、どれだけ自分の意見を伝えるかが大切、ということになってしまった。

鈴木 面白いですね。三重県人の気質は他者に寛容、大らかで差別をしない、と言われているんですね。
もしその中長期記憶というのが実在するとすれば、それは江戸時代にお伊勢参りがブームになったのが原因かもしれません。

日本の人口が3000万人だった時代に、500万人の人が押し寄せ、なかには無一文で来た人もいたようです。
そこに伊勢街道の人たちが無償で食事を出し、お風呂や宿を提供した。そんな記憶が細胞に残っているのかもしれません。

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丸若 都市の物質主義的な価値観に染まっていないところが地方の強みになるでしょうし、これからの時代が求めるニーズに合うというのは確実でしょうね。

鈴木 いま産業の面ではサステナビリティも注目されていますけれど、古くからの文化にはそういう面がちゃんと織りこまれているんです。

たとえば海産物を採る海女という仕事は日本書紀にも書かれるほど古い伝統漁法ですが、考え方のなかに徹底した資源管理が根づいているんです。
小さな漁村でも漁場を複数に分けて一カ所だけから採りすぎないようにしたり、一家に3人海女がいても、ウエットスーツは一着だけにして、みんなでもぐらないようにしたり。

三重の名物である伊勢エビ漁でも、和具という地域では国の定める7cm角の網よりもあえて大きい網を使用して、小さいエビは揚げないようにしている。
結果、三重で一番大きいエビが採れる地域として有名になりました。

三重のPRはもちろん大切なのですが、その背景にある日本古来の価値観というのも知ってもらえるような努力は続けています。

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今まさに時代が変わるとき。その瞬間に立っている

丸若 知事は都市からの視点と地方からの視点、両方を持っている、というのも強みですよね。

僕がパリにお店を作った理由のひとつが、日本の伝統文化を海外に紹介したい人はたくさんいますが、実際に腰据えてやっている人はそう多くない。現地の目線を持つことで、得られる知識の深さとその質が変わってくるはず、と思ったからなんです。
住んでみて初めて、日本とかフランスとか『国』という存在を意識しましたし、その間をつなぐ中間となるのはなにか、考えるようになりました。
だからお店の名前も、外と内とをつなぐ『NAKANIWA(中庭)』とつけたんです。

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鈴木 僕は知事に出馬する前は東京と兵庫に長らくおりまして。
三重に何度か来るたびに、失礼ながら『もったいない県だな』と思っていたんです。
食も住環境も文化も圧倒的に豊かなのに、住んでいる人たちが『三重に住めてすごく嬉しい!』という雰囲気でもない。
いろいろな職業があるなかで、僕は自分らしい人生を実現する選択のひとつとして政治家という表現方法を選んだわけですが、正直なところ、いきなり国会議員になるよりも知事になった今のほうが、住民のみなさんの切実な声を聞く機会も得ましたし、多くのことを動かして失敗も成功もさせていただいている。
地方にいる現在のほうが、全国に声が届きやすい部分もありますからね。

丸若 明治維新もそうですが、時代が変わるときは新しい価値観の人と古い価値観の人が混在するんですよね。国と国でも、都会と地方でも。
歴史が変わった後に振り返ると、変化は必然だったと思えますが、当時は古い歴史を必死で守ろうとしていた人たちもいた。

僕たちが気づいていないだけで、そういう変化のなかにあるのが今の時代である気がします。
不況だとか時代の閉塞感だとかメディアは書いていますが、実は閉塞感なんてないんじゃないか、一部の閉塞感を持ってほしい人たちがそう思わせようとしているのではないか、とすら思います。

鈴木 ノーベル賞を受賞した大村智さんも言っておられましたが、昔は地方からたくさんの優秀なリーダーが輩出されていたんですよね。
でもそういう土壌も廃れてきて、地方ではダメで東京に行かないと、という雰囲気になってしまった。
でも今日お話をしていくなかで、無条件に『東京!』という時代が終わってきているのをあらためて感じました。

丸若 これまで地方から都市、という一方通行だった流れが、地方から都市に戻っていくことで、外でも内でもない『中庭』のような中立的な視点がもっと生まれて、これまでの物質主義に偏った形ではない新しい政治や経済の姿が生まれていくのかもしれないですね。

Interview/Text: 木内アキ

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鈴木英敬

すずき・えいけい/1974年生まれ。東京大学経済学部卒。98年通商産業省(現:経済産業省)入省。
2011年4月に三重県知事に当選。全国最年少知事となり現在2期目。
首都圏での営業拠点「三重テラス」開業、企業投資促進制度「マイレージ制度」を創設するなど政治手腕を発揮する。
16年5月26、27日に開催されるG7「伊勢志摩サミット」の誘致を牽引したことでも注目を浴びる。

http://eikei.jp/profile/

丸若裕俊

まるわか・ひろとし/丸若屋代表、クリエイティブディレクター。
イタリアファッションブランド勤務などを経て、2010年に株式会社丸若屋を設立。伝統工芸から最先端の技術まで今ある姿に時代の空気を取り入れて再構築、視点を変えた新たな提案を得意とする。
14年、パリのサンジェルマンにギャラリーショップ『NAKANIWA』を、16年1月にはパリのマレ地区にライフスタイル提案ショップ『アトリエ・ブランマント』をオープン。日本の手仕事の魅力を発信している。

http://qreators.jp/qreator/maruwakahirotoshi

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