あたらしい命との出会いを支える~妊娠出産の駆け込み寺・大葉ナナコさんのプロジェクト〜

2016.04.01

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———大葉さんの事業内容は、主に【子供向け】【大人向け】【企業向け】の3つに分かれていると伺いました。まずは、子供向け事業について教えてください。

私はバースコーディネーターとして多世代の男女に、妊娠・出産についての情報や、命の大切さを伝える活動を展開してきました。子ども向け事業は「誕生学アドバイザー」という学校での命に授業のゲストティーチャーを育成してきました。
「誕生学スクールプログラム」と名付けた学校の授業にはない科目で、自尊感情を向上してセルフケア動機を高めるプログラムを、公益目的事業として年間約1,000校で開講しています。最新の取り組みは、「ガールズエンパワメント プロジェクト」と題して、約30万人の10代の女子に授業を届ける事業です。今年から開始しました。女子校を中心に3年間で1,000校を回り、この授業を届ける計画です。

私は約10年前の2005年に誕生学協会を設立しました。この10年で、弁護士や臨床心理士、学校教諭や助産師など約450名のアドバイザーを育成してきました。事業開始後、この10年間で女性全体の人工妊娠中絶率は下がったものの、人工妊娠中絶全体の10%が10代という事実は変わりませんでした。10代の女の子から生まれてくる赤ちゃんの数は、今も1週間で約250人、年間で13,000人もいます。先日は小学校6年生同士の妊娠があったのですが、キッカケは男の子がアダルトサイトを見て、性行為に強い好奇心を持ったことでした。望まぬ妊娠であっても23週間を過ぎたら、その後は出産する他は選択肢がありません。例えば性暴力被害後に月経が止まり、妊娠の不安があっても親にも誰にも相談できないまま3か月ほど経過し、無介助で出産する。そんな悲しい事例が、多々あります。商業的性情報の中には、子供や女子が暴力的に扱われているものも増えており、被害リスクから子供たちはまだまだ守られていないのが現状です。性被害後に自殺してしまう事例もあります。このような理由から予防支援としても、10代の女の子たちが自分の未来を自分で守れるように、この「ガールズエンパワーメント プロジェクト」を立ち上げました。先日、クラウドファンディングサービス「READYFOR」で、女の子たちに配る情報支援冊子の、10万冊の制作費援助を募り、無事に達成することができました。女の子たちの、健康で自分の人生を自己決定できる明るい未来のために、活動を進めていきます。

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———「命の授業」では、どんなことをお話しされているのですか?

男子にも女子にも、自分自身のいのちの大切さを実感できるように、奇跡的に誕生してきていることの喜びを再確認する時間を設けます。感動が無ければ行動変容は起きないので、自分を守るためにもまずは自己肯定感を高めることが重要と考えています。10代の女の子の望まぬ妊娠をなくすためには、このほか男女交際に関するコンテンツを届けると共に、デートDV(恋人間で振るわれる暴力)やレイプ被害を防ぐための啓発も行っています。たとえば小学生だと、男性に体を触られても、その意味が不明で抵抗できない女の子がいます。なかには家族から性的虐待を受けて助けを求められない状況の子もいます。自分のからだを大切にし、助けを求めてもいいのだと情報提供し、予防啓発しています。

子どもたちは性被害を受けた場合、身近に相談できる人がいる場合はいいのですが、そうでない場合、望まぬ妊娠に至るケースや、精神を病んでしまう場合もあります。それを阻止するためには、不当な扱いを拒否できる自己決定力、助けを求められる受援力を高めるサポートが重要です。同時に、警視庁や内閣府の相談機関や、法務省の子どもの人権SOSミニレターの連絡先なども伝え、「1人で悩みを抱え込まないように」と話しています。

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———大人向けの事業としては、どのようなことを行っているのですか?

大学生や働く女性やカップルに向けては、バースコーディネーターという情報とメンタルサポートのプロを育成し、「フューチャーマザーレッスン」「ホリスティック妊活レッスン」という妊娠前から学べるクラスや、妊娠中のカップルで参加できる「ホリスティック マタニティクラス」などを展開しています。仕事と出産時期の調和を「ワーク&バース バランス」と名付け、出産育児と仕事の両立を考えるフォーラムを2010年から定期開催しています。職場でも地域でも、すべての新しい命が「生まれてきてくれて、ありがとう」と言われる社会を目指し、次世代の男女には「しまった」ではなく、「よかった」と思える妊娠出産を迎えるには情報提供が必須と考えています。働く女性が、どの時期に母になり、どのように仕事と育児を両立したいのかなど、人生におけるワークとバースのバランスを考えるのはライフデザインそのものです。出産とキャリアのバランスを創るための講演やセミナーをバースコーディネーターたちと展開しています。業界や職種によってもバランス作りは異なるので、「これさえすればいい」という黄金率はありません。とはいえ個人レベルでは妊娠・出産の知識とセルフケア術を身に付けて、働き方の選択肢を広げておけば、子供がほしいなと思ったときに必ず役立ちます。

今、不妊治療を受けている女性は多いのですが、治療前からできるセルフケアを知らなかったり、パートナーの男性が親になることに消極的であったり、メンタルサポートも必要です。妊娠前から産後のメンタルにも優しい出産方法や、出産施設の選び方も知っておくべき。そうやって心と身体とホリスティックに準備を進めれば、ストレスマネジメントしながら大好きな人と家族チームとなり、新しい命を迎えることができますよね。

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———企業向けの事業内容を教えてください。

出産後の職場復帰については、いまだに約6割もの女性が正規雇用を辞めています。ちょうどこの4月から、女性活躍推進法が施行され、私たちの財団では「バース・フレンドリータウン」や「バース・フレンドリーカンパニー」の認定、そして、育児について理解のあるボスを育てる「バースフレンドリー・マネージャー」の研修もスタートします。法律や職場など、これまでよりもさらに、女性が働きながら妊娠出産しやすいよう制度のみならず、風土も改善していく必要があります。

もし働く女性が「流産の危険がある切迫流産」と診断されたとき、出張が断れなかったら?職務中や職場での流産という結果は、本人にはもちろん職場にとっても辛いものです。社内流産は減らせるはずです。働く女性が、妊娠が判明した時点で相談できる上司、「バースフレンドリー・マネージャー」が存在している職場が増えれば、理想的と考えています。流産は原因が不明で現時点では止める薬もありませんが、働く女性の妊娠初期は、特に精神的に支えられる職場環境が必須です。妊娠出産と働き続ける上でのストレスマネジメントが可能なら、産後の継続就業率は高まると考えています。

政府が2020年までに、女性の管理職を30%まで引き上げるという目標を掲げています。女性リーダーたちの中で、働きながらの妊娠・出産・育児を希望する人が両立しやすい社会を作らなければ、少子化は一向に改善しません。シカゴ大学社会学部長の山口一男教授の調査研究によれば、働く女性の第一子出産動機は「職場の支援があること」です。働く女性が職場の支援を受けることができれば、少子化は改善される可能性が高まります。人生の中で様々な出会いがあり、大好きな人と一緒に暮らしたい、家族が欲しいと希望があるのに、「職場の事情で出産できない」という状況であるのは、あまりにもったいないと考えます。不妊治療している女性の約25%が退職している調査結果もある今、少子化課題と女性の活躍推進と両立するためには、企業や職場環境の風土改善だけでなく、行政ともタッグを組み、「働きながら産み育てやすい職場があふれる街づくり」を進める必要があります。今後は消滅可能性都市とともに、女性活躍推進と少子化改善策で協働していければと計画しています。

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———そのほかに、今後の取り組み予定やビジョンがあれば、聞かせてください。

今年はGoogleの「Women Will」という活動のアンバサダーをやらせていただいています。
Googleが2014年10月に立ち上げた「Women Will」は、女性のテクノロジー活用を促進することで各国の女性が直面する問題の解決を目指す、アジア太平洋地域全体の取り組みです。日本では「#HappyBackToWork」(Happy Back To Work)といったプロジェクトが掲げられ、出産などを機にさまざまな理由で女性が仕事を辞めてしまう状況を改善するため、「女性が働きやすくなる」アイデアを集め、サポーター企業・団体と共に実践の輪を広げる動きが推進されています。Googleと一緒に、産後もハッピーに仕事に戻れるような取り組みを広げていく予定です。

今後はオンライン上で、24歳以下の若年出産層や働く女性に役立つ、出産体験談の投稿サイトや、妊娠の準備期から悩み相談ができるコミュニティを運営したり、有料の動画配信をしたりといった、テクノロジーの活用も広げていきたいですね。私自身、5人目の子供を産んだあとに、4つの会社を設立した経験がありますので、これから出産を希望する女性のみなさんに、さまざまな未来地図の形をアドバイスできると思います。ぜひ、一度「バースフレンドリー・フォーラム」に足を運んでみてください。

Interview/Text: 小林香織

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大葉ナナコ

おおば・ななこ/バースコーディネーター、一般財団法人ベビー&バースフレンドリー財団代表理事、公益社団法人誕生学協会代表理事、株式会社バースセンス研究所代表取締役、環境省グッドライフアワード実行委員、環境省「つなごう、支えよう森里川海」アンバサダー、Google Women Will アンバサダー
多くの世代が妊娠出産の基礎知識やいのちの大切さを学べるようにと、1997年バースコーディネーター業を創職。2003年にバースセンス研究所を設立。2005年に日本誕生学協会を設立(2011年3月公益認定を受ける)。 自尊感情を高めるいのちの教育プログラム「誕生学」(商標登録)が行政、学校、PTA、育児支援企業に好評を博す。2014年、少子化対策と女性活躍推進の両立支援事業組織として、ベビー&バースフレンドリー財団を設立。産み育て働き続けやすい“バースフレンドリー企業”を増やす研修を展開。環境省グッドライフアワード実行委員。次世代育成のための官民各種プロジェクトに参画。著書24冊。現在、筑波大学大学院に在学中で「オキシトシン」を研究中。少年院、女子少年院に性の健康教育を届ける活動も行なっている。

公式FB
一般財団法人ベビー&バースフレンドリー財団公式HP
公益社団法人誕生学協会公式HP

http://qreators.jp/qreator/oobananako

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