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日本人が日本の価値に気づいていない。「脱東京」の著者が見た和歌山の酒蔵“平和酒造”のものづくり

2016.02.23

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昨今ネットが発達したことで東京にこだわらず地方から日本の魅力的なものづくりを発信する企業が増えつつある。
その内の一つと言えるのが和歌山にある酒蔵の平和酒造だ。平和酒造はけっして酒造りが盛んと言えない和歌山で10数年前より酒蔵の組織改革に取り組み、いまや日本酒業界で最も注目を浴びる酒蔵となっている。

今回はその平和酒造に、『脱東京』の著者である本田直之氏が訪れ、平和酒造専務の山本典正氏に「酒造り」や「日本のものづくり」についてお話を伺った様子をお届けする。

【本田直之】レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長
ハワイ、東京に拠点を構え、年の半分をハワイ、3ヶ月を日本、2ヶ月をヨーロッパ、1ヶ月をオセアニア・アジア等の国を旅しながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。これまで訪れた国は50ヶ国以上。屋台から三ツ星レストランまでの食を極め、日本ソムリエ協会認定ワインアドバイサーでもある。著書に、16地域を旅しローカルでクリエイティブに暮らす人や企業・自治体31にインタビューした『脱東京』等

【平和酒造】
1928年(昭和3年)の創業。四代目で代表取締役専務の山本典正氏が酒蔵を継いだ10数年前より酒蔵の組織改革に取り組む。大手酒造メーカーからの委託生産や廉価な紙パック酒に依存せず自社ブランドの開発・販売をしており、いま日本酒業界で最も注目を浴びる酒蔵のひとつ。代表的な銘柄は清酒の「紀土(KID)」果実酒の「鶴梅」

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ボーダーレスな時代になっているからこそ自分たちの出自がどこにあるのかが大事になってくる

———酒蔵の改革について

本田直之氏(以下本田):山本くんが酒蔵の組織改革を始めたのはいつから?

山本典正氏(以下山本):僕が本格的に取り組み始めたのは実家に帰ってきて酒蔵を継いだ11年前からですね。それ以前は東京のベンチャー企業で働いていました。

本田:酒蔵を継いだ時、変化に関して父親と確執などは生まれなかった?

山本: 当時うちは大手酒造メーカーからの委託生産や廉価な紙パック酒を製造していまして、それはそれで安定していて悪くはなかったんです。悪くはなかったんですが、バトンを引き継ぐ以上、僕がやるべきことは「ここからどう発展させていくか、変化させていくか」だと考えました。
そこで父に相談したところ父は一言「好きにすればいい」と。ただ以前からある古い体制を変える訳ですから意見の食い違いなどはありましたね。

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本田:そういう世代交代の苦労みたいなのってものづくりしている若い子達にはさけては通れない道だと思うけど、そこはどうやって乗り越えたの?

山本: 幸いなことに僕の場合は自分がやろうとしていることに否定的な意見は出なかったですね。ただ懐疑的に見られる部分はどうしてもありました。そこはもう結果を出すしかない。結果を出して見せたら「ああ、なるほどこういうことか」と納得してもらえましたね。

本田:なんかシャンパーニュ(※フランスにあるシャンパンの有名な産地のひとつ)のメゾンと日本酒の酒蔵の状況は似ているね。シャンパーニュも新世代が「俺たちは良い物を作りたいんだ」って旧来の構造を改革したら上手くいった例が多いんだよね。そういう意味では日本酒とシャンパンの状況はなんか似ているなって感じる。

山本: そうですね。僕もたまに世界のお酒の品評会に行かせてもらうことがあるのですが、そこで感じることはある意味、お酒または酒造りって世界はボーダーレスな世界に進んでいるのかなって思うんですよ。シャンパンやワイン、日本酒、ウイスキー等これらは味でも製法でも多少なり互いに影響をうけていますから。
ただボーダーレスに進んでいけばいくほど、今度は逆に「自分たちの出自、地面がどこにあるのか」、これも重要になってくるんですよね。どこから発信しているのか?何を表現しているのか?そういうものは自分達の酒造りの根底に関わってくるので。

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東京にいたのでは気づけない地元ならではの視点

———和歌山での酒造りについて

本田:和歌山で酒造りをしていて良かった点はどこなのかな?

山本: 良質な水がたくさん湧く点です。米って保存がきくので日本酒は必ずしも現地で造らなければいけないということはないんです。でもじゃあそこで何が重要になってくるかというと僕は水に着目しています。なぜかというと水にはその土地の味わいが感じられますから。

その点、和歌山は山が多い土地の性質上良質な水がたくさん湧いています。ですから良質な水が湧く和歌山で日本酒造りをしていて良かったと思っています。

本田:和歌山は梅酒つくりにも向いているの?

山本: そうですね、和歌山は梅の産地なので。良い梅が取れれば良い梅酒が造れる。実際、僕には東京から戻ったときに「梅」がすごく輝いて見えました。その時こんな良い素材が地元にあってこれを活かさない方がおかしくないか?という気持ちになったくらいです。だから僕は最初の酒造りは梅酒からスタートしたんです。

本田:それは東京などの他の地域にいたのでは気づけない地元ならではの視点だね。

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ネットが酒つくりにも大きく影響している

———ものづくりとネットの関係について

本田:酒造りも昔と大きく変わったし、情報が取りやすくなった。やっぱりインターネットの存在も酒造りに影響しているのかな?

山本: ネットの影響は非常に有りますね。酒造りの情報が取りやすくなった点はもちろん、情報を取るだけではなく情報の発信性と言う意味でもそうです。SNSなどを活用し作り手側がみずから酒造りをどう表現、どう発信していくか?これが酒蔵であっても求められている。

本田:飲む側のニーズも変わったし、レベルも上がった。飲む側も情報がたくさんあると。

山本: そうですね。その分、杜氏(とうじ)の名前で飲むという時代ではなくなったので良い酒さえ造れば若い作り手にもチャンスがある時代にはなってきましたね。

本田:今の若い作り手の人達は何年くらい修行すればできるようになるの?

山本: 僕は「若手の夜明け」(全国の若手蔵元と活動する日本酒試飲の会)の代表もやらせてもらっていて育てる立場でもあるのですが、そこで見ている感じで言うと大体5年しっかり頑張れば目が出る世界かなと。ただ早い人ですと一造り二造りで成果を出す蔵元さんもいらっしゃいます。まあでも最低三造りくらいの経験は必要だと思います。

本田:昔だったら良い日本酒を作りました、よいシャンパンを作りましたって言ってもなかなか知ってもらう手段が少なかったけど、今はネットがあるおかげで良いものを作ればすぐに広まるじゃない。それで国内外から取り合いになる。そうなるともっと良いものを作ろうとなる。良い循環の時代なのかなと思うよ。

山本: 本当にそう思います。

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海外では日本酒の需要が高まっているが日本人があまりにも日本酒を飲んでいない。

———日本酒の海外での評価について

山本: いま海外では、日本酒の需要が高まっています。なにせSNSの拡散スピードが速いので日本人より海外の日本酒マニアの方が日本の動向を知っていたりするくらいですから。
しかも日本の動向を海外の方が注目してくれるっていうことは、それだけ日本酒にすごい価値を見出してくれているっていう話なので本当にありがたいです。

本田:ワインもそうだよね、意外とフランス人もワイン知らなかったりする。

山本: ただこれだけ海外では日本酒の需要が高まっていても、日本人があまりにも日本酒を飲んでいない。僕はワインもビールもウイスキーも飲みます。色んなお酒が好きで飲んでいます。だからこそ日本酒に価値を感じている訳ですが、いま日本は自国のお酒に価値を見出していない。こんな悲しいことはないです。

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日本人が評価した日本酒を世界に発信していく

———日本酒の価値について

山本: 日本人は良く海外で評価されないと自国の価値がわからないなんて言われますが、僕は逆輸入で日本酒の価値を知るのではなく日本人に正攻法で日本酒の素晴らしさを伝えていきたいと思っています。
今はIWC(※イギリス・ロンドンで毎年4月に開催されるワインコンペ。2007年からは日本酒部門が設けられている)が日本酒の評価をしていますが、やっぱり日本人が評価した日本酒を世界に発信していくようにしたいんです。日本酒の聖地は日本なので。

本田:僕も来年は少し日本にいる時間を増やそうかと思って。海外は色々周ったんだけど、これからは日本人として日本の良い部分をもっと見てまわろうと考えているんだ。

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和歌山だけに沸く良質な水がある。和歌山だけでのみ表現できることがある。平和酒造による珠玉の清酒・果実酒は、和歌山でしか生み出せない必然によって成り立っていた。世界で注目される日本の「SAKE」。その価値の再認識と同時に、東京に縛られる生活に懐疑を持ち、地方でこそ成し得る偉業について見つめ直す必要があるのかも知れない。

本田直之

ほんだ・なおゆき/レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長
ハワイ、東京に拠点を構え、年の半分をハワイ、3カ月を日本、2カ月をヨーロッパ、1カ月をオセアニア・アジアなどの国を旅しながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。これまで訪れた国は50カ国を超え、毎日のように屋台から三ツ星レストランまでの食を極め、サーフィンやトライアスロンを楽しむ生活をしている。著書に、16地域を旅しローカルでクリエイティブに暮らす人や企業・自治体31にインタビューした「脱東京」や、クリエイティブに生きるために旅から学んだ35の大切なことを紹介する「TraveLife」、ミシュラン三つ星シェフをはじめフランス、イタリア、スペインなど15人に取材をして、シェフ達の哲学について書いた「なぜ日本人シェフは世界で勝負できたのか」、デュアルライフを送る自らの体験による深いハワイを楽しむためのノウハウ集「新しいハワイ」等がある。著書累計250万部を突破し、韓国・台湾・中国で翻訳版なども多数発売。
サンダーバード国際経営大学院経営学修士(MBA) 、明治大学商学部産業経営学科卒。社団法人日本ソムリエ協会認定ワインアドバイサー、アカデミー・デュ・ヴァン講師、明治大学・上智大学非常勤講師。

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