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200歳まで生きられるニュータイプ人間? デザインベビー? ゲノム研究のこれからを考える

2016.01.29

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生命の設計図であるゲノムを読み解く研究が進み、費用も時間も大幅に削減できるようになり、ゲノムを簡単に変えることができる編集技術も革新的に進歩しています。
しかし、ゲノムを編集することは、人知によって生命のあり方を改変するということ。未知の領域への希望と倫理的な課題のジレンマを抱えながら走るゲノム研究は、私たちにどのような未来をもたらしてくれるのでしょうか?

「平均寿命200歳やオーダーメイド治療が可能な世の中がやってくる」と語る、若手計算生物学者の仲木竜さんに、前回に引き続きゲノム研究のこれからについてお話を伺いました。

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“ゲノムを編集をする”ことで、ガンが完治する未来も近い?

————ゲノム編集というのは、人間の設計図を変えるということになりますか?

仲木  ゲノム配列を直接いじることなので、そうなりますね。
ゲノム編集というのは、たとえばガンなどの病気に関わるゲノムの配列を取り除いたり、別の配列に置き換える技術のことをいいます。
まだ医療の現場で実用化されてはいませんが、ゲノム編集をすることで病気の治療が可能になるというのはかなり現実的な話になってきていますね。

さらに、最近はそれが簡単にできるようになっていて、「CRISPR/Cas(クリスパー・キャス)」という技術で、ゲノムの一部削除や置き換えが、これまでのものにくらべると簡単にできるようになりました。
これまではゲノム編集に高度に専門的な技術が必要だったので、誰もができるというようなものではなかったのですが、いまでは専門家でなくとも比較的容易にゲノム編集ができるようになっています。

今後は、中学校・高校の理科の実験でゲノム編集したものが、世紀の大発見につながるということが、近い将来起こるかもしれません。

————具体的にその編集とはどのように行われるのでしょうか?

仲木  ゲノム編集というと、細胞から取り出して継接ぎするということをイメージしがちですが、実際には細胞が元々持っている機構を用います。
例えば先ほどご紹介したCRISPR/Cas法では、細菌がウイルスを撃退する時に用いる機構を利用するんです。ウイルスは自分だけでは増えることが出来ないため、他の生物の細胞に潜り込み、その分裂を利用して増殖します。細菌としては、その状況はあまり好ましくない。
そのため、細菌は自身のゲノムの中にウイルスのゲノム情報をブラックリストのように保存しておき、ウイルスゲノムが再度侵入してきた時に、それらと照合して排除します。
その機構を利用し、特定の編集したいゲノム領域を人工の細菌に覚えさせ、それらを細胞に入れこみ作用されるのがCRISPR/Cas法です。

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デザインベビー=思い通りの子どもが作れる?

————ゲノム編集ができれば、思い通りの子どもを作る、いわゆる「デザインベビー」も作れてしまいますよね。

仲木  今のところ研究レベルでの話でしかないですが、今後そのような風なサービスが出てくる可能性はあると思います。
ただ、倫理的な問題をはらむので議論の必要があるところですよね。線引きが曖昧なまま、技術だけが進歩していくということにもなりかねないですから。

————「デザインベビー」を作るとしたら、どのようなやり方が考えられるのでしょうか?

仲木  ゲノム編集は特定の細胞にしか作用させられません。そのため、細胞が膨大な数になってしまうと全部を変えることはできないので、我々の体が出来上がった時点で全てのゲノムを編集することは現在の技術では困難です。
そのため、体全体に反映させたいのであれば、まだ受精卵の段階か、それ以前の卵子と精子にある時に処理する必要があり、現在の技術ではまだ困難です。

————ちなみに、すでに成長してしまった私たちが寿命を延ばすなんてことも可能になるのでしょうか?

仲木  ゲノム解析や編集技術によって、体の細胞全てとはいかなくとも、部分的に異常のある細胞を治したり、置き換えたりは出来るようになるかと思います。
それらが各個人に向けカスラマイズされオーダーメード治療が実現した場合には、200歳くらいまでなら生きられるようになる気がしています。
あとは、人としてのニュータイプの出現ですよね。たとえば、葉緑体を持って光合成できる人間を作ることなど、それをどこまでヒトと呼ぶかは分かりませんが、技術的には現実味を帯びてきています。

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後天的に変化するゲノム「エピゲノム」って何?

————仲木さんは、「エピゲノム」というゲノムについて研究を進められていますよね。あまり馴染みがない言葉ですが、どのようなものなのでしょうか?

仲木  ゲノムというのは、体を構築するタンパク質がどういう構造しているのかという情報を持つ2%と、タンパク質の存在量・活性が細胞・状況特異的にどのように制御されているかを決めている98%の部分があります(詳しくは「 「ガン」や「高齢出産のリスク」の理由を“ゲノムの世界”からヒモ解く」に記載)。

まず、我々が持つあらゆる細胞のゲノムは同じであるのに、機能は異なります。
その機能の違いは、2%のタンパク質構造情報を持つ部分より、その他の98%の領域が密接に関わっていると言えます。これはすなわち、98%の領域の活性が細胞ごとに異なっていることを示しています。
98%の領域の活性を変える要素というのは様々ですが、例えば、ゲノム自体を細胞の核内でパッキングしているヒストンというタンパク質があります。こちらはゲノムをコイルのように巻きつけていて、このヒストンの構造安定性は場所により異なり、それがゲノムの活性につながります。またゲノムのメチル化という分子修飾は、それらが入った領域の情報を読みづらくすることが知られています。
これら活性変化は、ゲノム自身の変異が原因ではなく、時間・環境的に溜まってくる分子修飾によるもので「ゲノム」に対して、「エピゲノム」と言われています。

エピゲノムによって変化する事象の具体例でいうと、双子が分かりやすいかもしれません。双子は全く同じ設計図を持ちますが、成長につれて徐々に体の特徴が少し変わってくる。
それがまさにエピゲノムの後天的な作用で、その違いがどこのどのようなエピゲノムの活性変化によって実現し、どのようにして作用するのかを特定するのが私の仕事です。

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————見つけ出すのは相当大変なことだと思いますが、どのような作業で発見にたどり着かれるのでしょうか?

仲木  医学・生物学者が取得・蓄積した多数のデータを用います。生物学的なモチーベーションに基づき研究を行っているという点では、生物学者と私のような計算生物学者は同じですが、その検証に実験を用いるか、コンピューターを用いるかという点で異なります。
我々、計算生物学者は、目で見てはわからない新たな因果関係をコンピューターによって導き出します。
最もシンプルなアプローチとしては、ゲノムが同じで機能の異なる細胞群AとBの比較を行い、どうしてこの違いがでているのか、どのようなエピゲノムの変異に起因しているのかというのを明らかにします。
更にそれら比較群が多様になり、複数種類のエピゲノムを見るようになった場合は、新たな計算アルゴリズムを作るなどして、データの中に潜む因果関係を導き出します。

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不妊や薄毛治療にも応用!? ヘルスケア分野でも期待が高まるエピゲノム研究

————エピゲノムは後天的に変化するということですが、人為的に変化を促すということは可能なのでしょうか?

仲木  直接的に特定部位のエピゲノムを変化させることは、まだ難しいと言えます。ただ、エピゲノムの場合は、間接的にそれらを変化させることが可能です。
まず、ゲノム自体は生まれた瞬間に決まっており、生涯変わることはありませんが、エピゲノムは後天的に変化していきます。

これって、希望がありますよね。例えば、いま薄毛・脱毛改善の事業に携わっているのですが、男性に比べて女性の場合は、ストレスなどによる食生活の乱れといったエピゲノミックな影響で薄毛・脱毛が引き起こされるケースが多いんです。
ただこれは、症状を正確に把握し、適切な対処をすれば改善されやすいということ。そこで、エピゲノム解析が登場します。エピゲノム解析により、頭皮の状態や薄毛・脱毛のリスクを明らかにすることができ、適切な食生活や生活習慣をアドバイスすることが出来ます。
このように、エピゲノムを直接改変するということはできませんが、栄養や薬などで対処できるので、より的確なものを提案することができるようになるんです。

今後は、不眠や肥満といった問題にも応用していきたい。現在、弊社では、これまでなかなか注目されていなかった「致命性はなくとも、精神・身体的に大きな負担となる症状」に対して、特に注目して対処していきたいと考えています。

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ゲノム解析を植物に!? とんでもなく美味しいイチゴが生まれる?

————本当に効果あるものを補うことができるという意味で、大変意義深い取り組みですね。最後に、これからしてみたいエピゲノムの研究はどのようなものでしょう?

仲木  これまでゲノム配列解読は費用が掛かるという理由で、優先的にヒトやマウスへの取り組みが先で中心でした。
しかしながら、近年このゲノム配列解読の技術が飛躍的に発展しコストが下がったことで、様々な生物のゲノム・エピゲノム解析が幅広く行われるようになってきています。

そうなってくると、やはりヒト以外の生物についてもエピゲノム解析を応用してみたいです。
特に注目しているのは植物ですね。植物はおもしろいです。ヒト以上に環境・時間依存的にその姿を変え、ゲノム自体も様々な種が混じっていて複雑です。
植物のゲノムが分かってきたら、とんでもなく美味しいイチゴとか油たっぷりの菜種を作ったりしてみたいなと(笑)。

あとエピゲノムに限らず、海底にいる生物のゲノム・エピゲノム解析には非常に興味があります。海底火山の近くにいる生物なんかは原始に近いものを持っているはずなので、生命の起源に迫れる可能性も秘めていると思っています。

Interview/Text: 末吉陽子

仲木 竜

なかき・りょう/計算生物学者/株式会社Rhelixa代表取締役CEO。
1988年、愛媛県西予市生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。
次世代シーケンサーより得られた大規模エピゲノムデータを用い、独自の計算アルゴリズムに基づく計算生物学的アプローチで複数の研究を展開。在学中に、エピゲノム解析を応用したビジネスプランを提唱し、東京大学ビジネスコンテストで優秀賞、Japan Business Model Compositionにおいて2位を獲得。2015年2月に株式会社Rhelixaを設立。ゲノム・エピゲノム解析に留まらず、薄毛や不眠等の後天的な原因に基づく症状を改善するためのヘルスケア事業、精密機器の設計・プロトタイプ開発を行っている。2015年6月にはDMM.make AKIBAの公認クリエーターに任命され、「想像力を駆り立てる新たなおもちゃ」の開発をコンセプトに、LEGO工学デザインを伝道。

http://qreators.jp/qreator/nakakiryo

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