芸術は縛られない。拘らず多彩な表現を行う、異端の書道家・渡部大語

2015.12.19

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晩秋の乾風が紅葉を揺らしていた。その落葉を踏みしめながら、早稲田大学構内を歩く。ここに、大語がいる。早稲田大学のお抱え書道家として、学位記から看板まで、30年以上にわたって揮毫(きごう:毛筆で字を書くこと)してきた人物だ。荘厳な雰囲気に包まれる私達であったが、そこにいたのは、我々が当初予想していた”書道家”像を大きく覆す、気さくで好奇心溢れる、一人の芸術家だった。そんな大語さんが教えてくださった、我々が知る由もなかった新たな書の世界をご覧いただきたい。

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ゼラチンやボンドを墨として使用する、異端の書道家・渡部大語。


———大語さんは、どのようにして作品を書かれるのですか?

例えば、「夢」(画像参照)という作品はゼラチンを使用して書いています。墨にゼラチンを混ぜて、冷房ガンガンの寒いところで書くんです。それから暖かいところに作品を持って行くと、ゼラチン部分が溶けて、線にすごく面白みが出るんですね。


他にもボンドと煤を混ぜて使用したりします。出来合いの屏風に書くときなどは、膠を使った普通の墨のように縮んでしまわないので、ボンド墨が最適だったりするんです。色々な素材を使い分けていますね。

———墨だけを使うわけではないんですね!?

もちろん墨を使うこともあります。要は、最後に鑑賞に堪えるものが出来上がれば、どのような方法であってもよいということです。上手に使い分けるのが良いと思っていますね。あれは駄目だ、と決めつけるのは良くないです。ものを作ることに、あれはいけない、これもいけない、なんていうルールを自分の中に作らない方がいいですね。

———そういった色々なものを墨に混ぜて書く手法は、他の書道家の方々もされているのですか?

磨った墨じゃないと駄目!という方もいれば、反対にボンド墨しか使わないという方もいる。両方使うという方はあまりいなくて、どちらかに偏っている印象ですね。一長一短ですから、それぞれの特徴を活かしてあげればよいだけなんですけどね。

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言葉はメロディー、筆は音色。メロディーに合わせて、音色も変えたい!


———筆には何かこだわりがありますか?

筆にも同じことが言えます。こだわってはいけないんです。自分が表現したいことがあって、それに最もふさわしい道具を選ぶべきだと思います。

例えば赤ちゃんが初めて切った髪の毛で作られている胎毛筆というのがあるんですが、すごく扱いづらいんです。毛同士がくっついてしまって、なかなか使いづらい。しかし、それを使いこなすと面白い線が出てくるんですね。

他にも竹で出来ている筆や、イノシシの毛、鹿の仲間のサンバーの毛、牛の耳の中に生える毛だけを使って作られた筆なんかもあるんです。それぞれに特徴があって、描き出される線質が異なるので、使い分けることが大切だと考えています。
高価なものだけでなく、百円均一ショップで買える絵筆を使うこともあります。ある種のガサツさや、荒々しい味わいを出したいときなんかにはいいんですよ。

———どうして大語さんは色々な筆を使うのですか?

私は書家として、様々な言葉を書きます。そうすると、その言葉の中の感情や情景、それぞれが全く異なった顔を有しているんですよね。その内在化された個性を最大限に表現するには、一つの筆、一つの墨では間に合わないんです。どんな言葉を書いても同じ様に見えるというのでは、つまらないと思いますね。ロゴ等の場合は、依頼された段階で先方が想像した文字があるでしょうから、きちんとその希望に沿うように書くべきなんでしょうが、自分が何かを表現しようとする場合には、それだとつまらないですよね。とにかく質のよい高価な筆を使うだけでは、やっぱりそれぞれの言葉にふさわしい味わいは出ない。メロディーは違っても、音色が同じようなイメージです。それでは、あまり面白みに欠けますよね。

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書道は楽しい!とにかく楽しんでもらうための、優しい書道。


———そんな様々な表現がなされた書を、私達はどのように見れば良いのでしょうか?

私は、表現者として、ただただ観て楽しんでもらいたいと考えています。個展というのはショーですから、とにかく楽しんでもらいたいですね。

———大語さんは表現者として、楽しんでもらうための工夫をしているということですね!

私自身が満足するだけで良いのであれば、好きなようにやるだけで事足りるのですが、何かを表現して、それを観てもらいたいというのであれば、どうやったら喜んでもらえるのかを考えなくてはいけないですね。そういう場合には「習ったお手本通りに、上手に書けました」というような、所謂お習字的なものではない書き方を考えなきゃいけないのです。

———習った通りに、上手に書く”だけ”が書道だと思っていました!

学校の授業などでは、手本があってそれを模写するわけですが、それはそれでとても大切なことなんです。書道というものは、そういった習い書きと、表現が両立されている必要があるんです。私も未だに古典を引っ張りだしてきて、臨書(習い写す訓練)を一所懸命やっています。これは学校でお手本を書き写す作業と同じですよね。まずは模写からスタートして、きちんと基本を学ぶべきですね。自由で何をやってもいい世界だからこそ、品や、最低限の質は必要とされるんです。基本を知っているからこそ、それを打ち壊したいという欲求が生まれ、素晴らしい作品を生み出すことにつながります。

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書道界に流れる新たな波!これからますます面白くなる書道界から目が離せない。


———正直にお話しすると、書道には取っ付きにくい偏見を持っていました。いざこれから始めようと思っても、敷居を高く感じてしまいます。

先ほどの話と同じですが、書道を始める方の中には、文字を奇麗に書きたいという方もいますし、何かを表現したい方もいます。それぞれにあった教え方が大切なんですよね。習いたいという人が持つ要求に、それぞれ適切な教え方で対応出来る人が少ないのは事実ですね。

———書道というものに対する”堅苦しそう”という世間の偏見はどのようにして解消されるのでしょうか?

書道はただ上手に書き写すわけではなく、自由な芸術的表現も出来るという事実を、自らの手で表現して見せてくれるような書家が、たくさん皆さんの目に触れることで、きっと書道の見方は変わっていくと思います。
現在の若手書家の中にも、そういった書道界の次世代を担う、心強い方達がいます!例えば奥平将太さんは、彼の地元で大きな展覧会を開きました。過去の学術的な情報について遡って熱心に研究し、過去にやられたことのない書にチャレンジしています。
左利きの高濱渉さんは、展示会場で作品を書いて展示し、会期が終わったら燃やしてしまう、というような独自の哲学を持っている方まで、面白い波が次々にきているんですね。

そういう様々な思想を持った若者が現れると、私はとても嬉しくなります。彼らが有名になり、書道のイメージがどんどん変わっていくことで、敷居が高いという偏見は薄れていくのではないでしょうか。一度でも良い、書の世界を覗き込んでみてください。そうすると、きっとその楽しさが分かってもらえると思うんです。私もそのために面白いことをこれからも色々やっていくつもりなので、是非皆さんが興味を持つきっかけになれればと考えています。



ここにある渡部大語の様々な作品を見て、さっそく書道のイメージを改められた読者の皆様も多いのではないだろうか。授業で習うような「書き写すだけの作業」は、書道の持つほんの一面に過ぎなかった。立派な一つの表現方法、日本の伝統的な芸術として、これから書道を楽しんでいただければ幸いだ。

Interview/Text: 内村大地

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大語

たいご/書家
1951年島根県出身。1972年の島根での書の講習会で駒井鵞静(こまい・がせい)に見出され、1974年に進めに従い上京して内弟子となる。その後、公募展等で数多の入賞を果たすが、1983年の毎日書道展「毎日賞」受賞後フリーとなり、個展(日本各地で21回開催)を主な作品発表の場として現在に至る。早稲田大学嘱託書家として、1982年のジェームス・ウィリアム・フルブライト氏以来、各国大統領、国王、皇太子、ノーベル賞受賞者、国連事務総長、各国大学学長等々、百数十名の早稲田大学名誉博士学位記の揮毫の他、各種催しの立て看板等々筆文字に関わる業務に携わっている。インターネットや出版界では大五郎先生として親しまれ、独学者へのアドバイスを行っている。
書道研究途上社代表、日本蘭亭会監事

http://qreators.jp/qreator/taigo

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