模倣からの脱却。知の祭典『未来館フォーサイト2015』イベントレポート。

2015.12.18

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今、社会は危機に直面している。人々の幸福を実現する魔法として登場した科学が人間を縛り、「豊かだが幸福を感じにくい」奇妙な構造を作ってしまっている。そうした状況の中、科学技術の社会における役割と未来の可能性について語り合うために、2015年11月13日、日本科学未来館にて『未来館フォーサイト2015』が開催された。研究者・技術者、表現者、産業界、メディア関係者、市民など多岐に渡る参加者が互いの知をぶつけ合う場は一体どのような場であったのだろうか。その内部に密着した。

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議論のテーマはその場で決まる?!普通の会議じゃない会議。



会場では、多方面から多くの参加者が集まっているからこそ、会議のカタチをあえて取らない“アンカンファレンス方式”を採用し、台本のない自由な議論の場が用意されていた。自分の議論したい場に足を運び、自由に意見を交換することで生まれる新たなシナジーが狙いだ。


また、今回のイベント最大の魅力は“未知との遭遇”から生まれる化学変化である。普段は中々出逢うことのない著名人同士が、“議論”という場面で出逢い、互いの知をぶつけ合う。中には「伊藤忠テクノロジーベンチャーズ」代表の中野慎三氏のように普段ならば特別講演で来ていただくような著名な方々が多数集まり、一参加者として議論に参加するという不思議な光景も。幸福とは何か、科学とは何か、コミュニケーションとは何か、雇用の理想のカタチとは、医療とは果たして何なのか。今回の未知との遭遇の中から果たしてどのような化学変化が生まれたのであろうか。参加者は基本的には匿名を前提として参加しているため、本記事ではイニシャルのみの表記とさせていただく。

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市井にとっての幸福とは何なのか、社会においての幸福とは何なのか


幸福について議論を終えたH氏のグループによる、「幸福とは何なのか」についての議論は私達に大きな疑問を投げかけた。

H氏:私達のグループは幸福についての議論をしました。しかし、話し合えば話し合うほどに“幸福とは何なのか”というものに対して、明確な答えを出すことはできませんでした。人生ゲームのように、お金をたくさんもち、不動産を多く持っているのが幸福なのかと問われれば、そんなことはなく、しかしお金以外の明確な幸福のパラメーターを示せないという現状もある中で、私達は“幸福とは何なのか”という問いに真摯に向き合う必要があります。


結局のところ、自分の幸福は自分自身によってしかわからず、同じ幸福はありえない。だからこそ、私たちは今置かれている中で自分の役割を見出し、幸福を見出していく必要がある。そして、自分だけの幸福だけではなく、社会にとって、人類にとって、地球全体にとっての幸福という視野を、各々が持つ必要があるのではないかという議論になったところで制限時間が来てしまいました。

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労働とは何なのか。皆もっと怠けようよ!


人工知能と職をテーマに議論を進めたY氏のチームは、人工知能によって職が奪われるのではないか、私達人類の職と雇用は今後どうなっていくのか等「職とAI」について議論を進めた

Y氏:人工知能によって、職が失われ、雇用の機会が大幅に減るのではないかという議論を多く耳にします。しかし、資本主義や効率を体現した人工知能は多様性を持つ人間とまた別の立ち位置として職に携わるのではないでしょうか。


例えば、今はインターネットの発達によって、「個人と会社」という職のありかたではなく、「個人と個人」を繋ぐ職のあり方が増えています。例えば岡山のジーンズ職人にはインターネットを通じてヨーロッパから注文が来ますし、Airbnbなどで見知らぬ田舎のおばあちゃんと繋がることもできる。そうした個人と個人が繋がることであらたな職が生まれる可能性も現代社会は秘めていると感じます。


こうして、個人と個人が繋がるなかで大切なことは、一種の『怠け』だと考えます。自分の好きなことをのんびりとやっていく、心の余裕を持つことがインターネット社会では大切なことになり、そうした“余裕”が新たな仕事を生み出し、収益へと繋がる可能性を秘めています。もっと怠けて、自ら楽しいこと、心動かされることを行っていいのではないかという結論に達しました。

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良い生き方・豊かさとは、“良い死に方”を見つめることで見えてくるのではないか。


M氏のチームは“医療”についての議論を中心に繰り広げた。そもそも、医療の目的とは何なのか。長生きする国がそのまま幸福につながるのか。世界に誇れる保険制度、医療制度を持ち、世界でもトップの長寿国である日本は果たして本当に幸せなのか。医療と幸福についての議論に迫る。

M氏:私達のチームは“医療”について議論を進めました。そもそも、日本は世界にも誇れる、医療制度を持っており、国民全員が平等に治療を受けることができる皆保険制度は世界でもトップクラスの制度です。しかし、そうして作られた“長寿大国”を振り返ってみると、果たして誰が幸せなのかという疑問にたどり着きます。もしかしたら、誰も幸せではないのではないかという疑問も出てきました。長生きしてしまうと、介護の問題で家族が疲弊してしまう。だからといって延命を行わなければ罪になってします。長寿ゆえの苦しい現状も出てきています。


また、医療は世界的にみても、財政の多くを占めます。実際に世界のGDPの10%が医療問題と関係している事実もあり、このままいくと20%が医療の問題になるのではという懸念点もあります。しかし、裏を返すと医療の問題がうまく解決出来たならば国の問題の多くを解決できる可能性を秘めているとも考えます。


そうした議論をしていく中で。そもそも“医療の目的”とは何なのかという問いに行き着きました。この問いへの答えは“よく生きる”ことがテーマではないか。そして、延命の技術がますます進歩する中で、よく生きるためには、“よい死に方” を考えることを避けては通れないのではないかという議論で制限時間になってしまいました。

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医療・労働・幸福論、根本に流れるモノは変わらない。


それぞれのテーマに分かれ、参加者は40分の白熱した議論を展開した。しかし、それを3分にまとめて発表すると実にあっけないものとなった。だが、それで良いのである。そうして深いところまで自分自身の頭を悩ませる事で必ず新たな発見がある。最後に、本イベントのディレクターを務めたメディアアーティスト・江渡浩一郎氏からイベントに対する総括コメントを寄せて頂いたのでご紹介させて頂きたい。
『「未来館フォーサイト2015」は、科学者、経営者、行政などといった多岐にわたる分野の著名人が一堂に会し、フラットに議論を行なう新しい試みです。事前に議論の準備をしてきてもらうことは難しいため、当日その場で議案を出して議論を進める「アンカンファレンス」形式を採用しました。このアンカンファレンスでは、40分という短時間で1つの議論を進めます。そのため、短かい時間になんとかして頭をふりしぼってアイデアを出そうとします。その繰り返しが、普段とは違う頭の使い方につながり、知的な体操になっていたのではないでしょうか。参加者からは、はじめてアンカンファレンスに参加できてとても面白かったという声を多数いただきました。来年度以降の活動につなげていきたいと思います。』

私たち日本人は“議論”というものに慣れていない。自分の意見を言うことは避けるべきこと、主張は恥ずかしい物という暗黙のルールがどこかにある。しかし、何かを得るためには自ら発信する必要がある。発信すること、アクションを起こすことで他の方からリアクションが戻ってくる。そうすることで自分の知識がさらに深まる。こうしたきっかけを今回のイベント『未来館フォーサイト2015』は私たちに提供してくれた。知をぶつけ合うこと、互いの知を融合させること、互いの知を知ること。これからを生きるものとして、必ず大切になることを改めて感じさせてくれる素敵なイベントだった。

Interview/Text: 内田雄介
Photo: 栗原 洋平

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江渡浩一郎

えと・こういちろう/メディアアーティスト
1997年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科を修了。大学から大学院における専門はメディアアートで、在学中よりメディアアーティストとして作品を発表してきた。2010年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程を修了。博士(情報理工学)。専門はメディアアート、集合知、共創プラットフォーム。2011年からユーザー参加型のイノベーション創発のプラットフォームとして「ニコニコ学会β」を起ち上げ、現在は実行委員会委員長を務める。ニコニコ学会βは、グッドデザイン賞、アルス・エレクトロニカ賞を受賞。主な著書に『パターン、Wiki、XP』、『ニコニコ学会βを研究してみた』、『進化するアカデミア』。

http://qreators.jp/qreator/koichiroeto

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