QREATORS

最先端のテクノロジーを使って「人文学」視覚化していく作る人文学者・くとのの取り組みとは?

2015.11.17

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そのビジュアルゆえに誤解されることも多いだろう。 しかし、その「誤解」こそが誤解なのだ。

従来の人文学者とは一線を画した「作る」人文学者・“くとの”さん。
そのひとつひとつを紐解いていくと、思わぬ真実が浮かび上がってきた。

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———くとのさんが言う「作る」人文学とはどのようなものなんでしょうか。

私は普段、大学で哲学や宗教学というものを研究しております。哲学や宗教学というのは古くからあって文献などもたくさんあるんですけど、それゆえに昔の言語で書かれていたりして普通の人が読んでも全く理解出来ないんです。専門の研究者たちしか解読することができなくて、どうも一般の人にはとっつきにくい学問なわけです。
でも、やはり一般の人にも自分の学問のことを伝えたい、他の多くの人と思想などについて共有したい、話をしたいという気持ちが生まれまして、物体として存在しない抽象的な思想だったり哲学だったりを、どうやって目で見たり感じたりすることができるか、どうやって感覚的に表現するかというのがひとつのテーマとして行き着いたんです。

じゃあ、具体的にどうやって思想や哲学を視覚化するかというと、「デジタルヒューマニティーズ」(人文情報学)という分野の技術を使って、文献を専用のツールで読み込んで単語や語句ごとにタグをつけ、それをコンピュータ上に2次元や3次元で表すという方法を用いています。

この方法で、それぞれの宗教概念観がどのように関連しているかなど、視覚化することでわかりやすくなりますし、また、そのデータをもとに模型などをつくり、広く一般向けのイベントで公開して、実際に目で見て触ってもらったりすることで、自分の学問に興味、関心を持ってもらえるような活動をしています。今は主にデータを3Dプリンタで出力して形にした「思想の可視化」というものをしているんですが、ゆくゆくはそれを食べられる素材でつくって「思想の可食化」みたいなのもできればいいなと思っています。

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———実は「作る」人文学をはじめるきっかけとなった、ある出来事があったとか?

もともとものづくりが好きで、大学でロボットをつくっていたこともあったんです。でも、本来の研究である人文学に戻って、しばらくロボットのことは置き去りだったんですけど、ある時大学でミスコンテストが開かれることになって、教員がジェンダーにうるさかったので、その時のミスコンが男女混合でやることになったんです。それで私も参加することになって「ミスコンだったらウェディングドレスでしょ」と、ロボットづくりのノウハウを生かしてLEDを約5000個使用した初音ミクの電飾ウェディングドレスをチームで制作したんです。

私は当然電飾部分を担当して、他の2人はモデルや縫製を担当しました。その時はあくまで「ミスコンで勝つための勝負衣装」というふうに思っていたんですけど、よく考えてみたらこれは自分がやっている宗教思想や宗教学のテーマに関係あるなと思ったんです。

どういうことかというと、魂や異次元の存在は本来光るものであって、我々には目に見えない光を発していて、それを目に見える形で表現するともしかしたらこのように光るんじゃないかなと思ったんです。初音ミクの電飾ウェディングドレスには、古代の宗教思想の概念を現代の技術で表現したらどうなるだろうというテーマがありまして、私が研究している宗教家の思想では「人間の知性的な魂をのせる光の乗り物」という概念があり、その光り方によって魂の段階が表現されるというような考え方があります。人間の魂などが本来いる超越的な光の次元をこういうLEDとかで光らせて表すというのは、実は自分の研究につながっていたんだなと、そこで思ったわけです。

———「初音ミクの電飾ウェディングドレス」は大きな反響を呼んだんですよね?

ミスコンで発表した後は、第1回ニコニコ超会議や第2回ニコニコ学会βシンポジウムなどで披露しました。電飾ウェディングドレスは華やかな見た目とは裏腹に、内部構造はいたってロボコンそのものです。今はウェアラブルデバイスという「アップルウォッチ」などに代表される、体に装着して持ち運びのしやすいものが人気ですが、このウェディングドレスもそのさきがけと言いますか、一種のウェアラブルにしないといけなかったんです。

なぜかというとミスコンではダンスパフォーマンスがあったので、それに耐えうるために、壊れちゃいけないし、配線がちぎれたりしちゃいけないし、装着ができて、なおかつ間違って接続しないようにしないといけない、という感じでとにかく複雑な構造でした。万が一、配線を間違えて中で燃えても、自己消化性のある材質を使って延焼しないというような工夫もしました。

それでウェディングドレスの反響を受けて、続く第2弾として「光る電飾ショール」というのをつくったんです。ウェディングドレスの時は白く光ることしかできなかったんですけど、これはレインボーカラーの7色を使ってフルカラーで光るようになっています。

ちなみに12月19日に第9回ニコニコシンポジウムがあるんですが、そこで再び初音ミクの電飾ウェディングドレスを披露するので、もし興味がある方はぜひお越しください。

————しかし、光るウェディングドレスにはある問題点があるらしいですが?

ウェディングドレスを制作し、「作る」人文学をはじめてから3年くらい経った時に気づいたんです。「さすがに大きすぎるな」と。思想という見えないものを伝えるために確かに今まで見たことがない光るウェディングドレスは話題を呼び、影響力は抜群でした。ただライブやイベントごとに、この衣装一式をものすごく大きいダンボールを使って送らなければならないし、第一大きいですから、単純に重いんです。また開催場所が遠ければ遠いほど時間と労力と、そして費用もかかりますし。

私がしているこの「作る」人文学の活動は教育の一環でもありますから、学生を巻き込みたいという思惑もあったんです。人文系の学生は就職のことなどいろいろ問題を抱えているんですが、その中でも「異分野の学生と交流できない」という悩みがありました。理工系や情報系の学生と話ができないということで、こういうイベントなどに学生を連れていっていろいろな刺激を与えたいと思ったんです。ですから「この研究すごいな、面白いな」と思ってもらうために、ウェディングドレスよりももっと簡単な作りで、より身近な「光るアクセサリー」というものをはじめました。 例えば、イベントなどで来てくれた人に光るアクセサリーづくりのワークショップを開いています。また光るアクセサリーの他に、電子部品を使ったアクセサリーというのもあります。電子部品とスワロフスキーなどを組み合わせてアクセサリーをつくるんです。特に、光るアクセサリーは女性にとっては身近で入りやすいようです。

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「作る」人文学という、新しいものを生み出したくとのさん。

その存在は自身の作品のように光を放っている。

Interview/Text: 飯村泉
Photo: 森弘 克彦

くとの

くとの/「作る」人文学者
電子工作や自作真空管アンプにいそしんだ小学生の頃、将来の夢はリニアモーターカーの研究開発。人間が生きる根源を問いたくて哲学・宗教学の道に進路変更するも、大学生時代は文系学部から知能ロボットコンテストに3年間参戦。その後は宗教思想の文献研究を続けたが、ひょんなことでLED5000個使用の初音ミク電飾ウェディングドレスをチームで制作することになり、研究者人生に大きな転機が訪れる。
いま文系学部の危機が叫ばれるなか、実装のない思想/思想のない実装を打破すべく「作る人文学」をかかげ、人文系と理工系の境界領域で活動。抽象的で難解な宗教思想の概念を視覚化・可触化し、誰にも理解しやすい感覚対象として表現するなど、先鋭的な研究を進めている。新しいアカデミアの創出をめざすニコニコ学会βでは運営委員長を務める。
「イノベーションはエッジ(キワ)から」という宗教思想にも普遍的なテーマを体現する目的もあって、「作る」人文学者としては異性装。しかし、本人には男という自覚も女という自覚もない。

http://qreators.jp/qreator/chthono

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