ホリエモン「寿司職人が何年も修行するのはバカ」発言をミシュラン一つ星店オーナーはどう考える?

2015.12/4

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少し前に、堀江貴文さんの「寿司職人が何年も修行するのはバカ」発言が話題になりましたが、果たして今を生き抜く一流店は、その発言をどう捉えているのでしょうか?

今回はミシュランガイドの一つ星をオープンからたった2カ月で獲得し、2016年版でも一つ星となった「TIRPSE(ティルプス)」の若きオーナー・大橋直誉さんに、ご意見をお聞きしました。

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必要なのは「下積み」ではなく「努力のプランニング」

————オーナーであり、自身も料理人として働いた経験がある大橋さんとしては、この発言をどう捉えましたか?

大橋 同業者として「コツコツ下積みすることへの美徳」があるのか、正直なところわかりません。ただ僕の感覚では、そういう人はさほどいない気がしています。
僕は飲食業に入って、6年で「ティルプス」を立ち上げました。料理人として1年間、サービスが5年間。レストランで「マネージャー」や「シェフソムリエ」などのサービスの要職を務めたことがないというのもあるのですが、3年と同じ職場にいた経験もありません。

ですので、僕自身の経験からいうと、コツコツ下積みするというよりは「どのように努力するのか?」というのを見つけることが大切なのではないかと思っています。
「自分はどこのステージで勝負したいのか」を見据えて働くべきなのではないかと。

————具体的にはどういうことでしょうか?

大橋 自分が「どこで」「どのように」戦いたいと考えているのか? は明確にしておいた方がいいと思います。
例えば日本で一番というレベルのお店を作りたいと考えた場合、やはりそれに見合った経験や修行が必要だと思います。
短い年数寿司を勉強した人たちが、本当に寿司を食べ歩いている人たちと対面で勝負できるのか。知識も経験も食べている人の方が上だったら、そういう人と対等に向き合うには、やはりそれでは無理なんです。

ある程度認められるレベルまでいくとなると、寿司を握る技術だけではなくて、立ち振る舞いや会話、コミュニケーションの取り方も知らないといけない。
となると当然名店にいないとだめですよね。看板を継ぐために、名前を使うために、名店で長く働くというのも理解できます。
それとは対照に、「街で一番」「村で一番」「この辺、この国には寿司屋がないからチャンス」という状況なら、そのお店を開くために必要な修行があるはずです。

堀江さんがおっしゃってることは間違いなくて、実際に3カ月の授業を受けた方々が運営されているお店で、オープンから11カ月でミシュランに掲載された寿司屋があります。独学で素晴らしい飲食店を経営されている方もいます。
僕はどちらも素晴らしいと思います。

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大橋 今は昔と違って情報がすぐ手に入る時代なので、先輩に習わないと分からなかったものでも、自分で調べることができます。だから時間的に詰める作業は可能ですよね。
そういうのはどんどんアクセスして取り入れるべきだし、下積み時間を短くする作業って、結構あると思うんです。
近道とか抜け道とかって決してネガティブなものじゃない。むしろ、そうやって準備している人には、いい話が来たりすると思っています。

ただし、いずれの場合でも飲食店がオープンするときは、完璧であることは難しくとも、可能性を感じさせるように仕上がってないといけない。お客さんはプロトタイプを修正している時間をそんなにはくれません。
だから、どのステージでお店を始めるのか、そしてちゃんと人が集まる「コンテンツ」は用意できているのか。そこを判断するための下積み=修行は必要だと思っています。

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勘違いしてはいけない。「学ぶ」のではなく「貢献」すべきなのだ

————「下積み」ということに対して、大橋さんの意識はどのようなものでしょうか?

大橋 僕としては1円でも貰っている以上、学ぶことよりも「貢献」を意識すべきだと思います。
さらに言うと「自分の仕事はここまで」とか「ここまで頑張ればいい」と自分で線引きをするのも違うなと。だから自分の能力を出し惜しみしている人を見ると、もったいないなと思いますね。
「責任」は、飲食店ではシェフやマネージャーなど、上の人が全部とってくれるんですから。

僕は、お店はもとより「先輩」にサービスする意識で下積み時代を送っていました。
例えば先輩が作業しやすいように雑用を素早くこなし、必要な動きをする。それで人間関係も良好になっていったら、自然と仕事が来るようにもなるし、みんながハッピーだと思いませんか?
「とにかく頑張ります!」ではなく、相手(先輩)に対して適切なことができているかどうか、人がなにか頼みたくなるような働き方、「お前何かやってみろよ」って言ってもらえるような行いができているかどうか。そういった普段の心持ち、これがあると違うんじゃないでしょうか。

僕は「ひらまつ」に入社して1年間料理人をやり、その後の1年間は皿洗いしかやってないんです。接客以前に、まずお客さんを見たことすらなかった(笑)。でも辛かった印象は一つもないんですよ。
当時はストップウォッチを置いて皿洗いをやるとか、少しでも早く雑用ができる仕組みをずっと追い続けていましたね。ゲームにしてしまう感覚です。

仕事が早い人だと、他の人より仕事が増えて損している気分になるかもしれないけど、僕はむしろどんどんやるべきだと思います。

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ミシュランの星をとっても戦いは終わらない「今の方が僕にとっては下積み」

大橋 僕はありがたいことに、いろんな方にひっぱっていただいてここまで来ました。
気に入られる後輩のやり方ってあると思うんです。「この子うまいな」って思う人もいますし、「もったいないな」と感じることも。
チャンスをもらえるんだったら演じていいと思うし、その人にあわせるのって悪いことじゃないと思っています。上の人もそんなに無茶なことは振らないし、振られるってことは準備できているってことですよね。
周りに貢献する時間を過ごしていたら、自然と「下積み時代」は終了していると思います。

「下積み」って言葉が良くないのかもしれませんね。努力とか我慢とか、泥臭いようなイメージがついて回るのかな。
でも、そういう意味では僕、今の方が“下積みしてる感”ありますよ(笑)。変な感じですけど。今の方が過去よりよっぽど辛いタイミングは多い。

よく夢で見るイメージなんですけど、ひとつの業界を極めていくって螺旋階段みたいな感じで。
最初は大きくて広くて浅い階段から始まって、どんどん急に狭くなっていく。そこには全段で非常階段があって、そこから出てしまったらその業界から離れることになる、つまり終了。ゴールはないんです。
上に行けば行くほど昇るのがどんどん辛くなっていく。僕自身、途中で非常階段を出てしまう人をたくさん見てきました。

でも、苦しくてもやっぱりここでやめたらもったいないって思いますし、追い込まれたなって時を乗り越えると、一つ視野が広くなったなって強く実感できるんです。

Interview/Text: 河辺さや香
Photo: 栗原洋平(人物)

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大橋直誉

おおはし・なおたか / 1983年生まれ。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に料理人として入社。翌年ソムリエの資格を取り、サービス・ソムリエに転向。2011年渡仏し、ボルドー二つ星「Château Cordeillan-Bages」でソムリエを務める。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「Quintessense」で働き、レストラン移転に伴い同場所にて「TIRPSE」開業。世界最速でミシュラン一つ星を獲得。 2016年版でも一つ星に。
2015年7月より1年間限定のデザート・テイスティング・レストラン「KIRIKO NAKAMURA」をスタートさせる。

http://qreators.jp/qreator/ohashinaotaka

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