テレビは永遠だ。しかし、その役割は大きく変わっていくかもしれない

2015.11.24

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「THE 夜もヒッパレ」「DAISUKI!」といったバラエティ番組や、「ZIP!」などの情報番組をヒットさせてきた、敏腕テレビプロデューサーの三枝孝臣さん。約100本のテレビ番組の制作に携わってきた三枝孝臣さんは今年、テレビ局を辞めて自身の会社を立ち上げました。同時に、元LINEの森川亮社長が立ち上げたC Channelに取締役CCOとして参画。キャリアチェンジをした背景には、インターネット事業部での体験が大きく関わっていました。長年テレビの業界を見つめてきた三枝さんが感じる、メディアの役割の変化とは?

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1次情報はどこにある? ネットの動画をテレビが取り上げる時代

――26年間勤めた日本テレビを辞め、IT業界に転身なされたきっかけは何だったのでしょうか?

三枝 2年前から日本テレビ内のインターネットの事業を手掛けるようになり、これまでとは違う人脈が広がりました。IT業界に限らず、さまざまなクリエイティブワークをしている方とお会いするようになったんです。そこで、少し前までは大きな組織でないとできなかったことが、今はできるようになってきたことに気づきました。
例えば、映像をつくって人々に届けることは、以前はテレビ局のような組織でなければできなかった。けれど、インターネットによって、個人にもできるようになってきた。インターネットの普及は組織の枠を超えていろいろな人とつながることで、プロジェクトとして新しいビジネスを始めることもできると学びました。せっかくそういう時代に生きているのだから、何か新しい挑戦ができるのではないかということも、退職理由のひとつです。
あとは2006年あたりから、テレビ番組の“効き方”が変わってきたと感じていました。テレビ番組と視聴者との関係性が変わってきた。その変化が、急速に激しくなったのが、ここ2、3年のような気がします。

――例えば、どんなところから変化を感じられたのでしょうか。

三枝 一番大きいのは、テレビが発信したことをみんなが話題にするのではなく、みんなが話題にしていることをテレビが取り上げ、広めていく事が前より多くなってきたような気がします。テレビは、リーチを広げる役目を担うようになりました。つまり、1次情報のある場所が、テレビではなくなってきたのではないでしょうか。

――たしかに、最近はインターネットで話題になったことを、テレビが取り上げているのを見かけます。

三枝 本来テレビが持っていた、情報で人々に新しい体験を与えたり、共通の話題を提供するという役割が、インターネットに置き換わっていったんですね。

――それでもまだ、テレビの影響力は大きいのでは?

三枝 もちろんです。テレビとネットの立場が入れ替わる、ということは今後も100%ないでしょう。一部の急進的な人は、テレビの滅亡を語ったりもしますが、テレビがなくなることも、テレビ局がなくなることもないでしょう。まだまだテレビの市場規模は大きいし影響力も大きい。ただ、10年、20年という長期スパンで見た時に、これまでのような成長は難しいかもしれません。
僕はたまに、「なぜテレビを辞めたのですか?」と聞かれることがあるのですが、辞めたわけではなくおもしろいことや新しいことが、今のフェーズではテレビだけではなくネットにもある。そう思ったから、僕は仕事の立ち位置を変えたんです。テレビとネットは、テレビにはできないことがネットにはできる、という補完関係になっていくのだと思います。それは、敵対関係とは違います。
こうしたメディアの役割が変わりゆく中で、今必要なのはメディアデザインだと考えています。

――メディアデザイン、とは具体的にどういうことをやるのでしょうか。

三枝 これは日本テレビにいたとき、じつはZIP!という番組で実践していました。ZIP!という番組を立ち上げ総合プロデューサーとなったときに、これからの番組はテレビだけで完結して観られる時代ではないのでは、と思ったんです。そこでZIP!を、料理番組の「MOCO’S キッチン」、2分アニメの「おはよう忍者隊 ガッチャマン」など、細かいコンテンツの集合体にしました。そうすると一つひとつのコンテンツが、テレビ以外のいろいろなところでヒットする可能性をもつんです。2011年に番組が始まった当初から、「MOCO’S キッチン」は番組終了後にネットでも観られるようにしました。社内では、「なぜそんな事をするのか?」という意見が多かったです(笑)。でも、コンテンツを切り出すと、そこに新しいユーザーが張り付いてくれることが改めてわかりました。

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バズってブレイクするか、知られずに終わるかの両極

――私もZIP!の前に「MOCO’S キッチン」を知って、このコーナーがある情報番組は何なのだろう、というところからZIP!を知りました。

三枝 接触する媒体は、ネットでもいいし、本でもいいんです。そこで個別のコンテンツのファンになってくれたら、最終的に地上波の番組に人気が戻ってくるだろうと。最初からそういう商品設計をしてみました。これが、メディアデザインの一部です。新会社では、企画を立て、コンテンツ化し、どういうメディアに出すと一番コンテンツがドライブするかということを考える会社です。自分たちでコンテンツをつくることもあります。昔は、テレビや新聞ですべての情報が完結していましたが、いまは一つの媒体で総てのメッセージを伝えることは中々難しい。そこで、一度メディアのポートフォリオを組み直して、コンテンツをそれぞれのメディアに最適な形にして、どこで、どう発信していくか考えないといけないのではと考えました。

――ユーザーの感覚からすると、そうしてもらえるととても助かります。でも、メディア側からするととても大変なことなのでは?

三枝 テレビも新聞も、どのメディアでも今まではあまりやったことがないことなので、なかなか難しい。広告代理店も同じだと思います。これまで通りのビジネスモデルでやっていきたいというのが、本音でしょう、でも、そうすると今のユーザーのニーズと乖離していく可能性が大きい。だからこそ、新しい会社をつくってそこを変えていきたいと考えました。

――先ほどのお話で、テレビ番組をネットにアップすることに大きな非難があったと。2011年の時点でも、そうだったんですね。

三枝 みんなその当時から、頭ではやらなければいけないとわかっていたと思います。どのテレビ局もそうでしょう。でも、じっさいにやり始めることが難しい。なぜかというとネットの事業はコスト面でもやはり地上波のビジネスと、あまりにも規模が違いすぎるからです。僕は、「日テレ無料by日テレオンデマンド」という見逃し配信のサービスのプロジェクトにも参画しましたが、それも社内ではなかなか理解を得るのが難しかったです。
番組制作者は配信で見られることで視聴率が落ちることを心配していました。でも、今一番こわいのは、知られないことです。だからとにかく、タッチポイントを増やさないといけないんです。

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――いまは、知られないリスクが高い、と。

三枝 昔は、接触するメディアが少なかったですよね。僕が子どもの頃は、コンテンツを発信しているのは、4マス媒体と言われる、新聞、雑誌、ラジオ、テレビだけでした。テレビ欄をじっくり見て、「今日はこれを観よう」と決めて、オンタイムでテレビの前に座る。そういう視聴スタイルだったんです。でもいまは接触媒体が多すぎて、ここで告知すれば見てもらえる、という保証がなくなった。
どんなに力を入れて新番組をつくっても、知ってもらえなければ観てもらえません。ドラマも「とりあえず1話はリアルタイムで全部見る」という人がけっこういました。今はそれよりも、3話放送くらいの時点で、周りの人やネットから「おもしろいよ」と聞いて見始める、ということが多いですよね。

――わかります。Twitterで話題になっていると、観てみようかなと思います。

三枝 そして、「ちょっと観てみよう」と思ったら、まず動画配信サイトで探したり、録画してみる。そして、ほんとうに面白いと思ったら「リアルタイムで見るか」となる。

――コンテンツの視聴の仕方、見つけられ方が大きく変わってきたんですね。

三枝 はい。2011年に放送された「家政婦のミタ」というドラマは、最終回の視聴率が40%にものぼりました。これ、僕はこわいと思ったんです。

――うれしいのではなく?

三枝 これは、「世間で(ネットで)今バズる」と、ここまで現象化するのかと。もちろん、コンテンツがしっかりできていておもしろいことは大前提です。しかしテレビ番組もネットコンテンツと同じように、「まったく知られていない」と「バズってめちゃくちゃ観られる」の振れ幅が大きくなってきた。それを如実に感じた一件でした

――Twitterをしながらテレビを観る、という視聴スタイルも新しく出てきました。

三枝 テレビ番組というのは、けっきょくはコミュニケーションの装置の要素が強いんですよね。「8時だョ!全員集合」は、常に40〜50%の視聴率を稼ぎ出し、伝説のバラエティ番組と言われました。これは番組もちろんおもしろいのだけれど、月曜日の話題についていきたいからみんな観ていたわけです。視聴後のコミュニケーションが重要だった。テレビの周りに家族みんなが集まって視聴する、というのもコミュニケーションを誘発しているわけですよね。こうしたコミュニケーションの装置が、いまはテレビ以外にも登場してきました。Twitterもそうだし、ニコニコ動画なんかもそう。そして装置には、それに合ったコンテンツが生まれてくるものなんです。

(後編へ続く)

Interview/Text: 崎谷実穂
Photo: 栗原洋平

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三枝孝臣

さえぐさ・たかおみ
株式会社アブリオ 代表取締役社長
/C Channel株式会社 取締役 CCO
1966年東京生まれ
1989年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本テレビ放送網入社
テレビプロデューサー、演出家として、入社2年目で企画した「DAISUKI!」を皮切りにバラエティ「夜もヒッパレ」「さんまSMAP」ドラマ「平成夫婦茶碗」「明日があるさ」「東京ワンダーホテル」情報番組「スッキリ」「シューイチ」「ZIP!」等全てのジャンルで数々のヒットコンテンツを世に送り出した。
2013年同社インターネット事業に携わり新規事業開発に着手。放送コンテンツとインターネットを使った事業立案に関わる。2014年「Hulu」制作部長、インターネット事業担当部次長を経て2015年独立。
新たにメディアデザイン事業会社、株式会社アブリオを設立し、同時にC Channel株式会社取締役に就任。
一方で日本舞踊岩井流宗家の血脈を受けつぎ、岩井流五代目岩井杜若の名を持ち日本伝統文化事業にも携わる。

http://qreators.jp/qreator/saegusatakaomi

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