2016SSのパリコレシーンから見えてくる、次なる社会の動き

2015.11/10

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名だたる有名メゾンが新作を発表、世界中の熱い視線を集め続けるパリ・コレクション。
次なるファッション・トレンドが生み出される最前線であるこの地は、見方を変えれば、私たちを取り巻く時代の空気を色濃く反映する場でもある。

編集者として『ViVi』『GLAMOROUS』『Numéro TOKYO』など数々の人気雑誌を手がけてきた軍地彩弓さんは、大学時代に専攻した社会学の見地からファッションを通じて時流を読み解くのを得意とし、デジタルコンテンツのプロデュースからドラマのファッション監修まで幅広い分野で活躍してきた。

今回のパリ・コレクションを訪れた彼女の目には、どのような社会のムーブメントが見えてきたのか。

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SNS時代突入でトレンドが薄まってきている

————そもそもパリ・コレクションとは、ファッションの世界でどのような位置づけの場なのでしょうか

軍地 春夏と秋冬の年2回発表される新作コレクションは、コレクションサーキットとしてニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリ、東京と世界各国をまわっていきます。
それぞれの都市ごとに特徴があって、たとえばニューヨーク・コレクションは『ラルフローレン』や『マイケル・コース』『カルバン・クライン』など世界企業が多いので、全世界的に売れる物のトレンドや新しいプロモーションの手法など、コマーシャル的な流れを見るのに向いている場所です。

ではパリはというと、私たちの言葉では“ファッションの総本山”。
もともと『Chanel』や『ランバン』が新作発表をメゾンの中で顧客を集めた形式で始めたのがコレクションの始まりという経緯も含め、パリコレはやはりコレクションの最高峰。
コマーシャリズムとは一線を画した洋服の神髄があるんです。
いまファッションがどのような社会的意義を持つのか、そこにはどんな世の中の流れが反映されているのか、すごく分かりやすい場所だと思いますね。

————軍地さんの目に、今回のパリコレはどう映りましたか?

軍地 SNS時代になってから様子が変わってきたな、と感じました。
もともとファッションは「自分をどう見せたいか、どう見られたいか」というパーソナルな側面と、「社会的に私はどうあるべきか」というソーシャルな側面の両方を持っています。
SNS時代は「自分をどう発信していくか」というパーソナルな面が中心。
一般的にトレンドと言われるものは、世の中の動きから生まれる潮流ですから、ソーシャルな側面の一部。
つまりソーシャルが弱体化してトレンドの必要性が薄まってきている、とも言えるんです。

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軍地 コレクションには有名ブロガーやモデルなど、ファッション的に影響力の強い“インフルエンサー”と言われる人が多数訪れますが、以前はこういう場に来る=2015年秋冬の最新トレンドに身を包むのがあたり前でした。
しかし最近は、ブランドのヴィンテージを着ている人がいたり、ファストファッションを組み合わせてリーズナブルにコーディネートを楽しんでいる人がいたり、トレンドの呪縛に縛られないパーソナルな価値観のファッションが台頭しています。
パリコレは何兆円単位のお金を動かして半年しか持たないトレンドを伝えている舞台であるのに、“トレンド”という潮流がいま終わりかけている。
それはすごくアイロニカルに思えました。

Saflo prha294990
『ヴァレンティノ』と『ルイ・ヴィトン』の対局なランウェイから見てくるもの

————これからの時代を読み解くうえで、印象的だったショーを教えてください

軍地 一番衝撃的だったのは『ヴァレンティノ』ですね。
コレクションのテーマは“アフリカ”だったのですが、土臭く民族的になりがちなアフリカの雰囲気を最高級のオートクチュールに近い表現で演出したのを見て、連日の疲れも一気に吹き飛びました。
土を撒いたランウェイをモデルが歩いてくる。着ているのは一見ラフなドレスのようで、実は細かなレースの上に一つひとつビーズを敷きつめている大変手の込んだもの……。
それはため息が出るようなクラフトマンシップで、長年オートクチュールを手がけてきた『ヴァレンティノ』の職人魂が感じられました。
ショーの招待状には『デジタルへの反逆』という言葉がありました。
情報サイクルが早いデジタル社会ではトレンドの動きも速くなり、ファッションも消費されやすい。
『ヴァレンティノ』がこのショーで見せたのは、絶対にデジタル化されないもの、つまり人が作り出した歴史と、時間によって培われた技術です。
この“デジタル時代のクラフトマンシップ”が、これからの時代を読む大きなテーマではないでしょうか。

一方で、その対局にあったのが、会場の壁と天井まで三面すべてにデジタルサイネージのモニターを張り巡らせた『ルイ・ヴィトン』。
ランウェイを歩くモデルの後ろに映像や光が流れ、アニメのキャラクターのような美少女戦士が登場するサイバーなコレクションでした。
洋服自体も、アイコンであるモノグラムを使ったカジュアルなジャケットなど若者に受けそうなデザイン。
一つひとつの伝達の仕方がSNSに乗りやすく、拡散しやすい仕掛けになっています。
というのも、現在の顧客だけを見て物づくりをしているとブランドは次の100年を描けません。未来へ歴史をつなげていくには、若い世代にアピールをしていかなければ。
その点で『ルイ・ヴィトン』は前回のクルーズコレクションでもドローンの映像を使うなど、話題の最先端技術を常に使っています。
先に登場した『ヴァレンティノ』も、クラフトマンシップを重んじたショーを展開しながらも、PRの戦略としてはデジタルを強化していく方向。
“ツールとしてのデジタル”も押さえたいもうひとつのテーマですね。

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————クラフトマンシップがパリコレに表れてきた背景には、どんな時代の流れがあると考えますか。

軍地 失われない“物の価値”が求められているのではないでしょうか。
いまは買い物するにしてもゴハンを食べるにしても、口コミですぐ評価がついて嘘は暴かれ、正しい物が評価されます。
「本当の物の価値を見極める時代」になった、と言えるでしょう。

私が若い頃を過ごしたバブル時代において、ブランドの価値というのは「私は『ルイ・ヴィトン』を持てる人間なのよ」などと自分を価値づけするためのラベル的なものでした。
しかし若い世代を中心に、ラベル的な価値観が崩壊したいま、ブランドの価値を表すものとは営んできた何十年何百年という歴史やそこで培われた技術。
つまりクラフトマンシップを背景にした「一生もの」という価値です。
この「一生もの」を求めるマインドというのは、いまの世の中全体を覆っている、物語性、「物を大事にする=エシカル志向」や「背伸びせず身の丈を生きる=カンファタブル志向」とリンクします。
見せかけじゃない本物の価値を見極め、知恵のある暮らしを目指す時代に“クラフトマンシップ”というキーワードがパリコレに表れたのは、流れとしても合点がゆきます。
オーガニックな食べ物にこだわる人が増えたのと根本は似ている気がしますね。

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ファションの定義を覆す「ファッション」が生まれる可能性

————ちなみに、東京コレクションをご覧になった感想も教えていただけますか?

軍地 東コレは岐路に立っている印象を受けました。いくつか海外を目指すブランドが、脱東コレを発表しました。ランウェイからすぐストリートに移行できるような東京らしさは、リアリティが過ぎると「お前は何をやりたいんだ」と海外メディアに叩かれる。
かといって着られない服を作るくらいぶっとんだ個性を打ち出すと国内で「売れない」と叩かれる。
そんな中、『mintdesign』、『YASUTOSHI EZUMI』や『Hanae Mori manuscrit』、『FASETASM』、『MIHARA YASUHIRO』など海外からも注目されるコレクションが目立ちました。
また、『KEITA MARUYAMA』や『Christian Dada』など日本素材や刺繍などを使ったコレクションなど、インバウンドを含めてこれから海外市場にむけて発信していくブランドが増えています。
そういう目で見れば、パリコレで活躍する『サカイ』の阿部千登勢さんは、彼女らしい創造力を発揮している中で、世界を舞台にした今後の活躍が楽しみです。

世界的に見ると中国や韓国のデザイナーには非常に勢いがあるし、アジア諸国から東京にやってくる若いデザイナーの貪欲な姿勢に比べ、閉塞感に内向きになっている日本の20代という図式も見えてきます。
ただ、世の中がデジタル化されたことで、いままでのように「アパレル企業に入ってデザインをしないと市場が作れない」という時代でもなくなってきている。
クラウドファンディングを使って資金を集めたり、作りたい物をネット販売したり、作品をインスタグラムで発表するなど、販路にもバリエーションが出てきています。
強い個性があり、やりたいことがある人にとってはチャンスはまだまだあると私は考えています。

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————次の10年、ファッションを通して世の中にどのようなムーブメントが起ってくると思いますか?

軍地 クラフトマンシップとデジタルの二極化という文脈で、ファッションを通じて常識を越えた天才が出てくるのではないか、と思います。

先日、東京ガールズコレクションの審査員をしたとき「洋服を作る人を募集します」と告知を出したんです。
そういう場合は服飾の専門学校に告知を出すのが一般的なのですが、SNSを使ったことでまったく服を作ったことのない子からも応募が来て、それがちょっと面白くて。
市販のフェイクレザーのスカートをベースに、自分でペプラムを付けているのですが、裏を見ると木工用ボンドで貼付けていたり、ホッチキスで留めていたり(笑)。
ミシンの使い方が分からないから、近所のミシン教室でミシンを借りて使い方も教わって「あとはYoutubeで作り方を見ました!」みたいな。
それがいいとは言いませんが、いわゆるファッションスキームじゃないところから洋服を作る子が出てきた、ということです。

クリエイターの「きゅんくん」こと松永夏紀さんも、バッグを作るような感覚で“着る”ロボットアームを作っています。
自分でプログラミングして、ハンダ付けもして、しかもそのアームがきゅんきゅん言うんですよ(笑)。
それを見たら「ファッションの定義ってなんだっけ?」と思えてきて。
もしかしたらバイオアートをするアーティスト、福原志保さんのように、細胞とかミドリムシで洋服を作る子なども出てくるかも知れません。

日本において洋服の歴史はまだ百年程度、海外でも洋服はあったにしろ『シャネル』が女性たちからコルセットを外してやはり百数年。
たった百年、二百年でできてきたものは、すぐに壊れるし変えられると思うんです。

先入観のないすごく透明な目でファッションを見つめ、新しいものを生み出してくるとんでもない天才“ジェネレーションZ”がきっと生まれてくる。
その日をとても楽しみにしています。



11月23日(月祝)開催!「六本木アートカレッジ〜クリエイティブシャワー〜」に軍地彩弓氏が登壇
「魅せて、伝える!〜人の直感に刺すアイデアの秘密〜」をテーマにトークします。
参加申し込みはこちらから

Interview/Text: 木内アキ
Photo: AFLO

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軍地彩弓

ぐんじ・さゆみ/編集者。大学在学中からリクルートでマーケティングやタイアップを中心とした制作の勉強をする。その傍ら講談社の『Checkmate』でライターのキャリアをスタート。卒業と同時に講談社の『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力する。2008年には、現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。2014年には、自身の会社である、株式会社gumi-gumiを設立。現在は、雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修まで、幅広く活躍している。

http://qreators.jp/qreator/gunjisayumi

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