編集者・軍地彩弓に聞く!次に来る“トレンドの芽”ってどうやって見つけるんですか?

2015.11/17

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私たちを取り巻く日常のなかで、刻々と移り変わるトレンド。
時代が求める潮流を読み解き、次に何が売れるのか探ろうと、企業やブランドは日夜、調査やマーケティングに勤しんでいる。

『ViVi』や『GLAMOROUS』など人気の女性ファッション誌を手がけてきた編集者の軍地彩弓さんは、不況の時代を背景にしながらも“物が売れる雑誌“を作ってきた手腕の持ち主。
時代を読む力に定評がある彼女が、次なる流行を生むトレンドの芽をどうやって見つけているのか。
その視点について問いかける。

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トレンドと“人の気分”は切っても切れない関係性

————ファッションから世の中の潮流=トレンドを読み解いていく、独自の考察が軍地さんの持ち味ですが、そのような視点を持つようになったきっかけは?

軍地 大学時代からフリーランスのライターとして働き始めまして、男性ファッション誌『Checkmate』で読者アンケートのページを担当していました。
当時の私の専攻は社会学。世論調査のような形で人々を訪問、話している言葉から時代の持つ空気を察知し、仮説を立て、さらなる調査でそれを証明して論文化していく……というのが社会学の基本中の基本です。
読者にいま何が気になるのか話を聞いて「AさんもBさんもCさんも『ルイ・ヴィトン』が好きと言っている=『ルイ・ヴィトン』が流行」のようなアンケートの作業は、社会学の調査と同じだな、と思いながら仕事をしていました。

そもそも社会学に興味を持ったのは、ドイツに『緑の党』という環境主義の政党が誕生して、80年代当時のヨーロッパにオーガニックレボリューションが起きたのを目の当たりにしたのがきっかけでした。
社会の空気が変わって時代そのものが変わっていく、その仕組みを勉強したくなったんです。
ファッション業界だと、まずファッション・リーダーと呼ばれる人たちが何の前触れもなく「次は70年代が来る」とか言い出して、それを追うように「70年代が流行!」みたいなムードが世の中に起こる。
そこに「なんで70年代?」という問いはなく、「なんとなく」そうなっている状況があります。
私はそれを単なる気分の問題で終わらせるのではなく「気分が生まれる理由がある」という前提で、世の出来事やデータを客観的に見る、という社会学的なアプローチを当時から今までずっと続けてきたにすぎません。

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————以前のインタビューでは、パリコレから見る時代の潮流について語っていただきましたが、やっぱりトレンドとは海外の流行が日本に波及してくるものなのでしょうか?

軍地 そういう部分ももちろんありますが、あくまで一例だと思います。
ファッションをピラミッドに例えると、その頂点には、米『VOGUE』の編集長アナ・ウィンターとか、デザイナーのカール・ラガーフェルドとか、ほんのひと握りの人が君臨しています。
かつて私が手がけていた『ViVi』などは、コモディティのなかでも最も数が多い、マスをターゲットにした雑誌です。
そういうデザイナーたちが言う「今年は70年代」という気分を追いかけるよりも、“街にいる女の子”のリアルな気持ちに意識を向けていく視点のほうが必要で、それが時代の潮流=トレンドを見る原点になってきました。
『ViVi』や『GLAMOROUS』が女性読者に支持され「次に欲しいものが載っている雑誌」と評価されたのは、そんなリアルマーケットに向けた視点のせいではないでしょうか。

————街の女の子の気持ち、いわゆるリアルマーケットから“次に彼女たちが欲しいもの”をどうやって見つけていくのでしょう?

軍地 たとえば「トレンチコートが売れている」というデータが手元に来たとします。
「トレンチコートを着て秋が深まったら、女の子たちはインナーに何が着たいのか」と、まず考えてみます。
次に「コートがかっちりしているから、インナーではちょっとリラックスしたいのではないか?」と仮説を立て「ビッグニットを誌面で取り上げてみよう」と選択、その結果を発売後の反応で検証するんです。

イメージを転がすようにリアルマーケットのマインドを読んでいくこの方法を、私は「風が吹いたら桶屋が儲かる」発想と呼んでいました(笑)。
これがもし「ロングコートが売れた」であるのなら、「ロングコートを着たら背を高く見せたいはず」、「厚底スニーカーがほしくなるのでは?」と展開します。
そうやって仮説と検証を繰り返してきた結果、掲載したアイテムが売れ、今のトレンドが分かる雑誌、という評価につながっていったのかな、と。

————トレンドと人の気持ちは、切っても切れない関係なのですね。

軍地 ファッションというのは、着る人の意識が見た目に表れてきたものだと思うんです。
なんでそのジャケットなのか、なんでその帽子なのか。
人それぞれの選択の裏側には「自分をキレイに見せたい」とか「今日は見ないでほしい」とか、そのアイテムを選んだ理由がある。
たとえば去年まで頑張ってハイヒールを履いていた子が、今年はフラットシューズを選ぶとします。それは「頑張るのちょっと疲れた」「心地よく過ごしたい」という気分の表れかもしれない。
同じような兆しが街のあちこちから起ってくると「リラックス」がひとつの時代のマインドになるわけです。
そこをひとつずつ観察して「みんなリラックスしたいんだなあ」「それでもスタイルを良く見せたいし、小柄が気になるから『ステラ マッカートニー』の10cmヒールのスリッポンが人気なのかも」とか考えちゃう(笑)。
これは昔からのクセですね。

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ネクストトレンドは“小さな気づき”と“検証”の繰り返しで生まれる

————軍地さんのように、人の意識の流れからトレンドを読む観察眼を身につけるには、具体的にどんな所に目を向けるとよいのでしょう。

軍地 トレンドの芽は、日常の中にある小さな変化から見つかるものなんです。
先日もランチタイムに街を歩いていたら、若い男の子が長財布を小脇に挟んで立っていて。
本当にただそれだけなんですけど「OLみたい」と感じたんですよね。
というのも、昔は若い男の子の主流って長財布より折り財布だったはずなんです。持ち方も、パンツの後ろポケットなどに突っ込んでいた。
それが今は「小脇に長財布」。ここで「男の子の行動が女子化してきた?」という小さな変化が気になりだすわけです。

「若い男の子の女子化」が気になりはじめたら、その世代の男の子の観察をひたすら続けます。
そうすると「噂話が好き」「財布の中にポイントカードがいっぱい」「飲み会ではサワーしか頼まない」とか、違う発見がある。
そこで「OLって言うより、オバちゃん?」という新しい気づきが生まれる。そういう小さな気づきの粒を集めて、煮詰めてゆくと「オバ男子」という言葉にコピー化されるんですね。
その後も「オバ男子」の生態を観察して「心が移ろいやすく、新しいキーワードに弱い」とかいろいろ仮説を立ててみます。
それをSNSなどでつぶやいてみると「職場にもこんなオバ男子がいる」とか「僕もこんなことしちゃう」とかいろんな人がコメントを返してくれる。
それがいい検証になって、さらに理解が深まっていくんです。

そうやって「気づき」と「意識の拡散」と「集約」を繰り返していくと、時代の映し鏡であるテーゼが見えてきます。
「オバ男子」でいえば「ジェンダーレス・ジェンダーフリー・ジェンダーミックス」などのキーワードが見えてくる。
実際、女の子がメンズの34サイズを着たり、男の子がレディースのデニムを履いたりする動きがリアルに起っていますから、「小脇に長財布」は「ジェンダーレス・ファッション」というトレンドの芽につながっていく。
人の意識の流れを見る、とはこういうことだと思います。

————なるほど! 小さな気づきとその検証から、時代のうねりが見えてくるのですね。

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編集者がすべきことは、情報の「一次発信」

軍地 先に述べた「ファッションは心の映し鏡で、その映し鏡の中に流行がある」という目で世の中を見るのが、ファッション編集者の仕事です。
「『シャネル』がこんなコレクションを発表しました」というプレスリリースをそのまま雑誌に掲載しても、それはメーカー発の情報を二次発信したにすぎません。
そこに「今季の『シャネル』はなぜこのようなコレクションを発表したのか」という独自の考察を加えてはじめて、情報の一次発信者になれる。
自分なりの考察を作って次に投げかける。これはメディアに関わる人間の役割ですし、今後もやっていかなければいけないと思っています。

————時代を読むのに長けた軍地さんですが、自身が「トレンドを生み出していこう」と考えることはないのですか?

軍地 私自身は、中身が空っぽなんです。
趣味程度にイラストを描いたり、写真を撮ったりしますが、いわゆる創作的な世界観は全くなくて。
写真家の蜷川実花さんとか、同じ花を同じiPhoneで撮っているのに全然違う写真になりますから、こういう人には敵いません(笑)。
私にもし人より長けている点があるとすれば、それは才能がある人を見極める力だと思っています。
振り返ると、小学生のときから傍観者で「クラスの中で一番おしゃれなのはこの人」「頭のいいのはこの人」「絵がうまいのはこの人」と、誰よりもすぐに気づく子どもだったんですよね。
自分が何かを生み出すのではなく、すごい人たちを見つけて「すごい!」と認め、世の中に伝えていく。
それが私のやるべき大切な仕事だと思っています。

Interview/Text: 木内アキ
Photo: AFLO/神藤 剛(人物)

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軍地彩弓

ぐんじ・さゆみ/編集者。大学在学中からリクルートでマーケティングやタイアップを中心とした制作の勉強をする。その傍ら講談社の『Checkmate』でライターのキャリアをスタート。卒業と同時に講談社の『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力する。2008年には、現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。2014年には、自身の会社である、株式会社gumi-gumiを設立。現在は、雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修まで、幅広く活躍している。

http://qreators.jp/qreator/gunjisayumi

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