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「メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる」から見る、モノづくりの夜明け

2015.11.2

Ogasahara

去る10月9日、満を持して発売された『メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる』(NHK出版新書)。
昨年、ハードウエアスタートアップのための開発拠点「DMM.make AKIBA」を立ち上げた小笠原治氏が、モノづくりの過去から未来までの系譜を、ハードウエアとソフトウエアの両側面から解説したとして話題だ。
「世の中がめちゃめちゃ変わる一歩手前にいる」と語る氏に、新時代を迎えつつあるモノづくりの現在について、お聞きました!

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今までの常識やあたりまえは、一度全部否定する

————“IoT”や“メイカーズ”、“センシング”など、専門外の方には聞きなれない単語が並ぶ本書ですが、どのような方にむけて執筆されたのでしょうか?

小笠原 専門の方にはもちろん、モノづくりに関わっていない方や興味がない方も意識して書きました。
どう伝えてよいかすごく悩みましたね。特に、業界の外にいる方々にどう伝えるべきか。
わかりやすく伝えるために、“IoT”や“メイカーズ”といったバズワード扱いされているキーワードをタイトルにも使用したのですが、発売後にいただいたコメントから、ITの界隈にいる方の手に届いたという実感があります。

————今までさまざまなIT事業を立ち上げていらっしゃいます。また、IT事業だけでなく「awabar」という飲食店まで。

小笠原 そもそも、僕には根気がないんですよ(笑)。運営が苦手なんです。だから立ち上げばかり。
同じ場所にいることも苦手で、例えば自宅も、東京に来て15年も経たないうちに10回以上引越しました。一度住んでみて、違ったら変えてみる。その繰り返しです。
最近はその町の持つ空気感とか、今の時代の流れに合っているところに住むことが多くなった気がします。
こういったところは、仕事にも共通していますね。やってみて違えば方向転換します。
やらない理由をいっぱい出す人もいますが、僕は真逆ですね。

「awabar」を立ち上げた経緯は、巷にある異業種交流会や勉強会のアウェイ感が苦手だったので、自分のお店をもてば、ホームを感じながら話せるなと思ったから。
つまり、僕が人としゃべるための場所でした(笑)。結果的にスタートアップの方が多くいらっしゃるようになりました。

Awabar

————「awabar」の回転率について、従来の飲食業の常識となっていることを覆した、データに基づいた戦略が興味深かったです。

小笠原 飲食業界の常識から入ると、回転率というものがどうしても出てくるんです。
僕は、今までの常識やあたりまえを疑うのが好きでして。連続性を疑うというのかな。
お店で試行錯誤して得たのは、「回転率を下げると売り上げが上がる」というデータでした。
それに基づいて、お客さん同士の会話を促すようスタッフに声を掛けてもらうと、徐々に滞在時間が伸び、実際に売り上げも上がったのです。

回転率は例ですが、続いているものは良いものだという考えが皆さんにもありませんか?
でも、俯瞰して見た時に良くない要素がある場合は、今までの常識を疑ってみた方がよいと思うんです。言い伝えは一度全部否定する(笑)。
モノづくりも一緒だと思います。この20年間、日本の製造業は大手メーカーを中心にこだわりのモノづくりと大量生産を維持するモデル、要は沢山売れ“そうな”モノばかり狙うマイナーチェンジ思考によって低成長産業化していたかと思います。
それに比べ、インターネット業界は急成長産業になり人も資金も集まり、急成長したスタートアップが他のスタートアップを買い取って会社ごとメジャーチェンジしていくようなモデルケースも多く生まれました。
それなら、急成長産業で育った人たちがハードウエアの分野に流れこんで、イノベーションみたいなものを起こすこともできるのではと。イノベーションというのは連続性の中には絶対に無いわけです。

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イノベーションを担うのはスタートアップ企業の役目

————イノベーションに必要な条件とは何でしょうか?

小笠原 イノベーションの卵は本当はどこにでもあります。
ただ、テレビが大きく綺麗になっていくような「進化」、iPS細胞のような「発見」などがイノベーションと混合されることも多いです。
イノベーションを孵化させるには連続性を強く求められる環境は不向きです。大手メーカーの研究所などでも0→1は起こっていますが、その次のステップが1→100を求められてしまい製品化まで取り組むのが難しい、これが実態です。

なので、いままでになぜなかったんだろうと言われるような0→1と世界中で200個×50カ国 = 10000個販売のようなグローバルニッチで1→10に取り組めるハードウェア・スタートアップが連続性という重力圏から離れて、自由に考え・作り・売り・サービスすることでイノベーションを起こす役割を担えると思います。
そうやって産まれたイノベーションもしばらくするとコモディティ化しますので、そこからを大手メーカーが必要であれば担う形でいいのではないか。そう思います。

Puzzle
3Dプリンターは、モノづくりというパズルの重要なワンピース

————従来の製造業のあり方から、モノづくりの実態が変化していると気づいたのはいつ頃のお話ですか?

小笠原 3年半ほど前です。当時、ウェブ界隈で失敗を告白し合うという、「失敗カンファレンス」というものが流行っていました。
実はその席で「DMM.make AKIBA」でもお世話になるCerevoの岩佐琢磨さんと出会いました。
そこで3Dプリンターが話題にあがったのですが、チタンの3Dプリントができるという話で、疑問が湧いたんです。
「いったい3Dプリンターを使って何ができるのか?」知識が無かったので、その後半年ほどかけて日本中の3Dプリンターを扱っている企業を訪問し、リサーチしていきました。

その結果見えてきたのが、モノづくり全体の工程というパズル。
そして、3Dプリンターをいままでの道具の置き換えと考えるのではなく、3Dプリンターならではのデザインや造形に活用していくべきだろうと気付きました。
もちろん、3Dプリンターをうまく活用すれば試作のスピードも上がり、トライアンドエラーが増え、完成品の質を上げることもできますし、クラウドファンディング※1のkickstarterなどでは原理試作程度は出来ていないとチャレンジさえ出来ませんから、3Dプリンターはモノづくりというパズルの重要なワンピースです。
3Dプリンターへの単純な興味からはじまったリサーチでしたが、ハードウエア製品を構成するモジュール※2の存在や、モノづくりの実情を理解することで、次第にこれからのモノづくりに必要なものが見えてきました。
実際の製造設備を備えた「DMM.make AKIBA」を創設したのはそういった経緯からです。「モノづくりの民主化」ということも叫ばれていますが、僕はいつもマハトマ・ガンジーの「世界を真に豊かにするのは、大量生産ではなく民衆による生産である」というメッセージに行き着きます。
長いこと解決されてこなかった「モノづくりの民主化」への僕なりのアプローチが、アイデアと製造設備を共有できる開発拠点の設立になりました。

「DMM.make AKIBA」には、オシロスコープはもちろんUSBやHDMIのアナライザー、チップマウンターという基盤の上に部品を置いていくための装置もあれば、CNCという切削加工機や塗装設備、そして梱包振動試験機など商品の出荷までサポートできるのです。
これまでの「研究開発から製造、販売、アフターサービスまでワンストップで担ってきた大企業のモノづくり」から、「質の高い試作品で付加価値をつけ、すでに存在するモジュールを組み合わせて新しい発想の製品をすばやく生み出すスタートアップ企業」へ。
そしてさらに、「IoT(Internet of Things)」を担うメイカーズ※3に。
モノゴトとインターネットをつなげ、新しいエクスペリエンスを提供するサービスへと、モノづくりのありようが一変する時代を迎えているのです。

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毎日をもっとワガママに過ごせる世界

————本書の副題にも「IoT」の文字がありますが、私たちは「IoT」をどう理解するべきなのでしょうか?

小笠原 「IoT」とは、もともとシスコが使い出した営業用の単語です。簡単に説明すると、身の回りのあらゆるモノゴトをインターネットに接続し情報を伝達し合うことで新しい価値を生むという意味があります。
例えばこの取材の場でも、僕がしゃべっている内容がディスプレイに反映されて、初めて聞いた言葉には解説が出たり、僕の声の抑揚から調べたいと思っていることを感知してリサーチをかけてくれたら……と思うんです。
インターネットを介して、もっとワガママに、そして自然に過ごしたいんですよ。
検索することさえもしなくてよい、操作そのものが不必要な世界観ですね。

現在つくっているファンドでは、すでにIoTではなく「IoE(Internet of Everything)」と呼んでいます。
EはEverythingだけでなくEmotionも含みたいですね。声の抑揚からユーザーの希望を感知するのは、Emotionに近いですよね。
人間の自然な行動や体内変化を、インターネットを介して伝達させ、より快適な世界を実現する。インターネットをディスプレイの外側に構築することで、モノとサービスの再発明につながると信じています。

Dmm.make

————IoEを含めた新しいアイデアの起点として、「DMM.make AKIBA」の可能性を改めて実感しました。

小笠原 こういう場を皆さんに解放することで、新しいモノづくりが始まるのだと思います。
僕は、自分が何かに優れているわけではないので、優秀な人が流れ込むための穴を空けたいんです。
ハード・ソフト・ネットの技術者の断絶感をなくし、ネット業界の人がハードに興味を持てるように、そしてハードの人に使いやすいインターネットを提供したい。
結局は、意識を変えたいだけなのかもしれません。できないと言われてきたことに「できるよ!」と。
きっと僕たちは、世の中がめちゃめちゃ変わる一歩手前にいるんです。そこに向けた正解の道があるのではなく、皆がそれぞれの方法でアプローチすることこそが正解なのではと思います。

※1)クラウドファウンディング=「こんなモノを作りたい」「こんな作品を作りたい」「この問題をこうやって解決したい」などのアイデアを持つ人が、インターネットのサイトを通じて広く呼びかけることで、これに共感した人から資金を集める方法。

※2)モジュール=ブロックの玩具のように自在交換が可能な部品。

※3)メイカーズ=新しいチャレンジをするスタートアップが、ITとインターネットをデイスプレイありきのパソコンやスマートフォンに閉じ込めることなく、ディスプレイの外型にある、あらゆるモノに持ち込むこと。また、新しい人間とモノとの再発明する集団。
(註は、「メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる」から抜粋)

Interview/Text: 瀬名 清可
Photo: 栗原洋平

小笠原治

おがさはら・おさむ /株式会社ABBALab、株式会社nomad 代表取締役さくらインターネット フェロー、DMM.make エヴェンジェリスト、awabar / fabbit オーナー
1990年、京都市の建築設計事務所に入社。1998年より、さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、ネット系事業会社の代表を歴任。2011年、株式会社nomadを設立し「Open x Share x Join」をキーワードにシード投資とシェアスペースの運営などスタートアップ支援事業を軸に活動。2013年、ハードウェア・スタートアップ向け投資プログラムを法人化し株式会社ABBALabとしてプロトタイピングに特化した投資事業を開始。同年、DMM.makeのプロデューサーとしてDMM.make 3Dプリントを立上げ、2014年にはDMM.make AKIBAを設立。2015年8月からエヴェンジェリスト。同年、さくらインターネットにフェローとして復帰。他、経済産業省 新ものづくり研究会 委員及びフロンティアメーカーズ PM、NEDO TCP事業 委員、福岡市スタートアップ・サポーターズ 理事 等

http://qreators.jp/qreator/ogasaharaosamu

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