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「ファッションは更新できるのか?会議」刊行記念イベント、ファッションにおけるイノベーションとは

2015.10.9

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2012年9月から約半年間、全7回にわたり実施された「ファッションは更新できるのか?会議」。
この会議の議事録が一冊の書籍として刊行されました。

今回は刊行記念イベントとして、「ファッションは更新できるのか?会議」実行委員の水野大二郎さん、金森香さん、そしてゲストに国立研究開発法人産業技術総合研究所主任研究員の江渡浩一郎さんと、KLEINSTEINの代表の小石祐介さんの2人を迎えて、書籍ができたいきさつや裏話を紹介。
また、書籍のテーマでもある「ファッションの更新」について議論されました。

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情報環境の変化によってファッションの届き方は変わる

水野  まず、この本のタイトルである「ファッションは更新できるのか?会議」がどのように生まれ、どのような経緯で書籍 化したのかをご説明したいと思います。
では、金森さんお願いします。

金森 「ファッションは更新できるのか?会議」は、2012年からスタートしました。
私はファッションブランド「シアタープロダクツ」のプロデューサーとして、普段仕事しているんですけど、それと同時にNPO法人のドリフターズ・インターナショナルにも所属しています。
そのNPO法人で、ファッションに関するシンポジウムとかトークなどの企画をもともとやっていたんですが、あるとき「Arts and Law」という団体の永井幸輔さんという弁護士の方とお話する機会があり、ご一緒にファッションの勉強会を企画しよう、という話になったんです。

月に1回のペースを目指しつつ、あまり議題を広げすぎず、ある一つのファッションの課題について話し合って深めていく中で、交わされた会話や考察を議事録として共有していくという仕組みを軸に考えました。

テーマとしては、法律家が企画サイドにいるという状況を活かし、法律がファッションにどのようにクリエイティブな示唆を与えることができるのか、また、新しいクリエイティビティを法律がどうやって支えることができるのか、ということ。
その頃「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」という、新しい著作権の仕組みを代表とする価値観に出会い、新しい消費の概念がうまれる気配も掘り下げたく思いました。
さらには、情報環境の変化に伴ない、作り手と受け手のコミュニケーションの回路も変化している時代にあって、同じことをしても違うように受容されるかもしれないし、ではいったいファッションがそれにどういうリアクションをしていけるのか?ということに興味があったんですね。

そこで、我々は相談し、ひとり一環して会議をハンドリングするモデレーターを立てようということで、水野大二郎さんに連絡したんです。
その辺りの細かい経緯は、書籍のカバーを外すと裏に水野さんとのメールのやり取りが書いてあります(笑)。

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何が起きるかわからないけど、ちょっと想像できる「『しあさって』のファッション」

水野 この書籍の背表紙には「しあさってのファッションを探して」と書いてあります。
あした・あさって・しあさって・ 2週間後と、どれくらいの未来にする? という話が制作中にあったんですよ。
当時のLINEのやりとりを追いかければ、金森さんが「しあさってくらいでいいのではないか」と仰ったのが出てくると思うんですけど(笑)。
この微妙な 距離感、微妙な不確実さが漂う「しあさって」という言葉を、金森さんはどういう気持ちで生み出したのでしょうか?

金森 まさかそこを聞かれるとは思ってなかった(笑)。「しあさって」は何が起きるかわからないけど、ちょっと想像できるくらい。日常的に使うことができる未来というイメージの言葉、かな。

水野 僕や金森さんをはじめ実行委員全員が、「ほどほどに未来がイメージできること」と、「ほどほどに不確実性が ただようこと」の間の絶妙なニュアンスをもつ言葉を考えたいね、という思いが当時あったと記憶しています。

江渡 この「『しあさって』のファッション」という言葉は、かなりいいですね。この本を表すのに適切な言葉だと思います。
「『しあさって』のファッション」という言葉がタイトルでもよかったくらい。
なんかこう「マックス・ヘッドルーム」っていうテレビ番組で、20分後の未来という始まり方をするんですが「ちょっと先なんだけどいまの現実を感じさせる」、そんなイメージがありますね。

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自分たちが作るもの、作り方、届け方を学びながら見直さなければならない

江渡 すごい素朴な質問なんですけど、そもそも「ファッションは更新できるのか」って誰が言い出したんですか?

水野 確か、金森さんでしたね。

江渡 なぜファッションを更新したいと思ったんですか?

金森 更新したいというか、この会議を始めるにあたって、ファッションの現場で働いている中で切実な思いがあったんですよ。
自分は何も知らない、同僚も何も知らない、同業者もあまり知らない、という。

例えば、私たちの会社は「THEATRE, yours」というプロジェクトをちょうどこの会議と時期を同じくして実施していたんですけど、先ほどお話したクリエイティブ・コモンズ・ライセンスしかり、知らなければならないことが色々あると感じました。
だから、学びながら、見直さなければいけないと思ったんですよ。視野を広げて、なにが起きているのか知らなければならない。
そして、そういうことを思う人は自分だけではないと思ったんです。
そこで、「ファッションは更新できるのか?会議」という多少挑戦的な名前をつけたんですが、賛否両論でした。

水野 賛否両論でしたね。「何を更新しているんだ!」とか。

金森 「俺は更新しているんだ、だまれ!」みたいな(笑)。

水野 以前の会議開催の時のTwitterとか振り返ると、「俺は話を聞いてないけど、登壇者の服がださい。そこから更新だ」なんて感想もありました(笑)。

小石 しかしそれは本質的な指摘かもしれないですけどね。

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ファッションの更新とは「どこをニューゲームとして仕掛けるか」

江渡 少し話を巻き戻すと、この本はなんぞやというところが僕には分からなかったんですね。
今までの話を総合すると、「いわゆる大御所が入っていない」、このあたりが特徴なんじゃないかな。

これは重要な点で、現在のファッションブランドを見ていると、先鋭的だなと思う新しいブランドがありつつ、その一方で、いわゆる御三家と言われているようなブランドもまた同時にファッションの先端を切り拓きつづける力を持っている。
それに取り込まれないで独自のものを展開していこうとする人たちは、どこに先鋭的なものを見出していくべきなのかと悩んでいるわけじゃないですか。
そういう人たちがこの書籍に収められていると理解しました。

ここから新しい先鋭的なものが出てくるのかなあ、という単純な問いをもって読んだんですけど、どうなんですかね。

小石 確かに今もパワーがあるのはデザイナーが経営権を持って成立しているファッションブランドだと思います。
「コム デ ギャルソン」、「ジョルジオ アルマーニ」そして「ラルフ ローレン」の3社が代表的です。
それぞれ中心にいながら40年間以上続いて存在しているBIG3です。
企業として利益を出し続けている一方、組織の中で最高権力を持っているから、業界が向く方向性と違った形で潮流を生むこともできる。
メディアや業界的な一般常識にあまり影響されず、一旦意思決定すると、それぞれの直感を「正当化」していくパワーがある。
戦後から2000年代までは、今は既に会社を手放してしまう人を含めてですが、オーナー型で動いていた人たちが流れを作っていたように思えます(※ラルフ ローレンは2015年10月に代表を引退)

それとは全く対極で、ファッションブランド自体をM&Aで買収して、そのポートフォリオで企業体を表現する財閥の力がものすごく強い時代になりました。
業界全体に強い影響力を持って、全体が流れる仕組みを中心からデザインしていく。
これらはブランドではないけど、前述したオーナーデザイナー型の組織に対する新しいゲームメーカーになってきています。
彼らが強くなったことで特にヨーロッパでは自分の会社を強く大きくするというクリエイターよりも、M&Aを通してビッグメゾンのクリエイティヴ・ディレクターを目指す方向性が主流になりつつある。
金融が活発な米国では特に面白い状況になっていて、ブランドを立ち上げて数年で会社を売るという、服だけではなく会社自体がそもそも最初から売り物になっているようなブランドが増えているようです。
「面白い服やスタイルを作る」という行為を見せる時の目線が、大衆、顧客やメディアだけでなく、バリュエーションに寄与する有名人や投資家の方にも大きく向いている。
エグジットやM&Aを最初から意識したファッションブランドが生まれているというのは、20年前にはおそらくそんなになかったと思います。
これはブランドというビジネスがスケールしにくくなってきたからだと思いますが。

今の状況を観察してその流れをうまくハックするクリエイターが出てくると面白いかもしれないですね。
それはクリエーションのできる投資家のような人たちかもしれない。
いずれにせよバランス感覚があって、中心と辺境の両方から新しいゲームを作る人たちだと思いますが。

江渡 ニューゲームという言葉が出てきましたけれども、キーワードとしてすごく重要だと思っています。
全体的にいうと、いかにニューゲームを仕掛けるかを考えていると思うんだけれど、どこにニューゲームを感じているんだろう、というのが僕にはまだよくわからない。
というか、この本の中としては、どこをニューゲームとして仕掛けようとしているんだろう。

小石 これは問題集的な本ですよね、ここまで問題を考えてみたのですがどうでしょうかという。

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ファッションは更新できるのか?会議の示す方向性とは

小石 「更新」や「先鋭」という言葉の定義が何なのかということは別にしても、いずれにせよ人間の本質と向き合う視点がないと面白いものは何も生まれないと思います。
そうでないと、どうするか?というよりもなぜなのか?という視点が生まれない。そもそも作り手は社会の一部であり、かつ社会とのインターフェースですから。
ファッションは商業性、芸術性、そして宗教性が三味一体になった唯一の領域です。
他のところで上手くいったものがそのままコピーできるとは思わないのですが、建築の領域での磯崎新さんの越境的活動は非常に参考になると思っています。
今は建築家の言葉には耳を傾けられるのが当たり前になったと思いますが、建築家が社会とのインターフェースであるということを社会に認識させた彼の功績は非常に大きい。
批評的な言葉も使って世界へ方向性を示しつつ、かつ「中心」で物を作るというスタイル。
どの領域でも「辺境」と「中心」を往来できる人が増えてくると面白くなってくると思います。

江渡 うーん、正しいが、磯崎新になるのは相当難しい。

小石 いずれにせよ簡単ではないと思います。
「更新できるのか」あるいは「更新とは何か」というのを本心から考えているのではあれば。これはどの領域でも同じことだと思いますけれど。

江渡 でも、たしかにもうちょっと更新されてほしいですよね。

水野 この書籍は、様々な「問いかけ」を投げかけています。モヤモヤしている現状に対してみんなで議論し、少しですが前に進めてみたのがこの書籍の成果です。
460ページ近くあるその内容は雑多で、多様な未来の可能性や課題を示唆しています。
「これがみんなの向くべき道だ」という一つの方向性を示すことは、これだけ多様な価値が並列的に語られている社会において、ほぼありえないことだと思います。

まだ見ぬ未来のファッションデザインを担う人たちが、この書籍で議論されていること、紹介されていることを創造的に解釈しながら読んでくれたら本当に嬉しいですね。

Interview/Text: 園田菜々

江渡浩一郎

えと・こういちろう/1997年慶應義塾大学大学政策・メディア研究科を修了。大学から大学院における専門はメディアアートで、在学中よりメディアアーティストとして作品を発表してきた。2010年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程を修了。博士(情報理工学)。専門はメディアアート、集合知、共創プラットフォーム。2011年からユーザー参加型のイノベーション創発のプラットフォームとして「ニコニコ学会β」を起ち上げ、現在は実行委員会委員長を務める。

http://qreators.jp/qreator/koichiroeto

金森香

かなもり・かお/ファッションブランド『シアタープロダクツ』プロデューサー、
NPO法人『ドリフターズ・インターナショナル』理事、イベントプランナー。
イベント・プランナー。セントラル セント マーチンズ カレッジ オブ アート アンド デザインの批評芸術学科を卒業後、チンドン屋をして出版社リトルモアに勤務。2001年にデザイナーの武内昭氏、中西妙佳氏と『シアタープロダクツ』を設立、現在まで広報ほかコミュニケーションにまつわる企画やマネジメント業務を担当。2010年にはNPO法人『ドリフターズ・インターナショナル』理事に就任。また2012年、包装材料問屋シモジマの新業態『ラップル』のオープンに際し、クリエイティブディレクターを担当。
http://www.theatreproducts.co.jp/
http://drifters-intl.org/

http://qreators.jp/qreator/kanamorikao

小石祐介

こいし・ゆうすけ/プランナー、KLEINSTEIN 代表、NOAVENUE 創設者。
フリーランスでデザイン、企画のプロデュース、ブランドのアドバイザーなどを務める。ファッションブランド『コム デ ギャルソン』在籍時に海外ブランドとのコラボレーション、空間インスターレションの企画などを担当。2014年にCUUSOO SYSTEMのCOOを務め、企画プラットフォームのNOAVENUEを創設。東京大学工学部卒業。
kleinstein.com

https://noavenue.com/

水野大二郎

みずの・だいじろう/慶應義塾大学情報学部准教授。1979年東京生まれ。2008年 英国王立芸術大学院 PhD in Fashion Womenswear 修了、博士号取得。日本に帰国以降、デザインと社会の関係を架橋する多様なデザインプロジェクトの企画・運営に携わる。主な活動に社会的包摂を目指すインクルーシブデザインの普及・実践活動、デジタルファブリケーションの普及・実験の場であるFablab Japan Networkとの協働、蘆田裕史との共同責任編集による『vanitas』の運営などがある。

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