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安藤桃子×丸若裕俊「日本のアイデンティティは“高知”にある」

2015.10/5

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1週間の期限付きで、ポップアップオフィスin高知を実施した丸若屋。
その1週間の高知滞在をアテンドした一人が、映画監督の安藤桃子さんだ。

2014年に安藤桃子さんが高知に移住したことが、ポップアップオフィスin高知を開催する大きなきかっけにもなったと、丸若裕俊さんは言う。

そのお二人に、高知での1週間について、日本人について、そして人としての在り方について語っていただいた。

《高知ポップアップオフィスについての丸若氏インタビュー記事はこちらから》

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安藤「丸若さんと高知を共有したくて、呼んだ」 丸若「安藤桃子が言うなら来てみよう、と思った」

————お二人が出会った時のことを教えてください

丸若 初めて安藤さんに会った時の印象は、パンチあるキャラだな、と。
その安藤桃子が「高知の主役は私ではない」と言っていて、このパンチある人間をもってしてもサブキャラにしてしまう高知ってなんだ?というのが、僕の高知への最初の興味です。
それで実際に高知に来てみたら、たしかに修羅がいっぱいいた。
だけどみんな一般人を装ってる(笑)。

安藤 そうね(笑)。

丸若 たぶん安藤さんは、確信犯的に僕を高知に呼んだんですよ。
まさに彼女のシナリオ通りに高知に足を運ぶことが増えていって。
だからこっちからもなにか一発お返ししなきゃいけないなと思って、ポップアップオフィスの相談をしたんです。

————本当に安藤さんは、意図的に丸若さんを高知へ呼び寄せたんですか?

安藤 そうですね。丸若さんと共有したいことが、ここにはあったんです。
私が初めて高知に来た時、「あ、日本人としてここにいるべきだ」と感じました。
日本人のDNAが目覚めたような感覚があった。だから移住したんです。
東京で生まれ育って、海外に長くいたのに、いつの間にか高知に辿り着いていた。今は高知を魂のふるさとだと思っています。

丸若さんが仕事で扱っているのは、伝統工芸などの“日本の魂”が形になったものだから、「ここに日本人がある」ということを彼と共有したかったんです。
丸若さんとなら、「日本人という感覚を共鳴し合えるんじゃないか」と。

丸若 カチッとはまったね。1週間高知にいる間に、漁に連れて行ってもらったり、酔いつぶれたりして、短時間で東京よりも濃い異文化共有ができた。

安藤 この土地に丸若さんや丸若屋の若い社員さんたちが来ると、百聞は一件に如かずで、身を置いた瞬間に感じられることがあると思いました。
「ここには生命力しかない!」と言いきりたいほどの、生きているという剥き出しの感覚を感じられる土地じゃないかな。
太陽も強烈だし、なにもかもがパンチとエネルギーに溢れてるから、人によってはしんどくなるかもしれないけど(笑)。

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————安藤さんが高知で感じている感覚を、丸若さんとなら共有できると思ったんですね。

安藤 そう、共有。

丸若 共有という感覚は、初めて出会った時からできていたよね。
出会った当初から互いの感覚をチューニングする必要が全然なかったですね。
だからこそお互い、相手になにか頼まれたらそれに対して形にしようっていう前提があるのかもしれない。

今回ポップアップオフィスをやりたいと安藤さんに相談したら、彼女も精一杯応えてくれて、いろんな人を紹介してくれた。
本来だったら相談する必要はないわけです。だけど“安藤桃子”というフィルターを通さないと意味がないなと感じている自分がいて。
だから高知で過ごす間のことは彼女にお任せしていたので、誰に会うか、どこに行くかは高知に来てから知ったんです(笑)。「え?漁行くの?」みたいな。
で、実際に彼女の案内通りに行ってみると、ピッタリ感覚がハマる。

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頭の中に「クエスチョン」が浮かばないと、人は成長しない

———じゃあ安藤さんの感覚で、「この人は丸若さんに合うだろうな」という方を紹介したんですか?

安藤 その土地を守っているような人を紹介しました。
高知で偉い人っていわゆるボスじゃなくて、「みんなぁを知っちゅうよ」という顔の広い人が随所にいるわけです。
そういう人たちを紹介すると、そこから「じゃあこの人とこの人とこの人にも声かけるわ」というふうに輪が広がっていく。
そしていつの間にかスケジュールが真っ黒に!

丸若 安藤さんが要所要所を押さえてくださっているから、普通なら美味しい鰹のタタキを食べるにもいろいろな段階を踏まなきゃいけないのに、すぐに「はい」と出てくる。
食べたらめちゃくちゃ美味しくて、「これなんですか!?」って僕は興奮してるのに出したほうは「いや普通でしょ」で終了。
それ以上ヒントがないから、まるで子どもの時みたいに「これなんだろう?」という疑問がたくさん湧いてくる。

安藤 そうなんだよね。
私も高知に来てから意識するようになったんだけど、「この野菜はなぜこんな色なんだろう?」「なぜこんなに美味しいんだろう?」と疑問を持って調べてみたら、野菜の原種が東京にはないものらしい、ということを学んでいく。まるで子ども。
でも、子どもは学んで吸収するだけの生き物だから、私たちはここから先に繋げて誰かに還元できるかが一番大事。

そもそも「?」がない限り人は学ばないから、クエスチョンマークって人生のすべてだなと思う。ここにいるとクエスチョンマークがたくさん生まれるから先に進める……のかもしれない。

いろんなことに驚いて、吸収して、調べていくうちに、気づいたら予想もしていなかったところに辿り着くことが、今週だけでもたくさんあった。
それでも、死ぬまでに高知のディープさをどれだけ体験できるだろうというくらい、いろいろなものがある場所。

高知の人に言わせると「高知にはなんもない」って言うんですけど、でも私からすると、ありすぎて困るくらいある。「全てある」場所。

丸若 「なんもない」って言えることはすごいことだよね。
これだけいろんなものがあるのに「なんもない」と思ってるってことは、相当レベルが高い。
だから安藤さんが「ここには答えがある」と言う感覚は、僕も共有してる。

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東京でも高知でもパリでも、同じ感覚でいたい

———高知にいる1週間、どんなことを経験をされたんですか?

丸若 馬路村という柚子の村や、日本酒「美丈夫」の酒蔵や、土佐和紙農家を見学したりしました。
あと、漁にも出ましたね。

安藤 船に乗って沖に出たんだけれど、漁師さんがメジカ(鰹の新子)を釣ってくれた。

丸若 自分たちはなにもできなかったですね。
誰かといて無力感を感じるきっかけってなかなか無いよ。
そもそも都会人って無力を感じるのをすごく嫌がる。でも、無力を感じることはすごく重要なんです。
だから今回は「ボッコボコにされよう」というサブテーマが自分のなかにあったんだけど、見事にボッコボコにされました。
だけど気持ちよくボッコボコにされると、嬉しいんですよ。
漁に出たりなんて一見すると遊んでるように見えるけれど、真剣に遊ぶことなんて最近はなかったし。

安藤 真剣に遊ぶことほど危険で怖いことはないですもん!
ハイキングのようなものじゃなくて、冒険する感覚なのかな。
飛び込むことが一番楽しい遊びなんだけれど、遊びほど、真面目にしっかりと目を見開いて取り組まないと危ないことはない。

丸若 その真剣な遊びに応えてくれた高知の人たちや環境に、いい意味でやられましたね。
しかもこの一週間、安藤さんは毎日朝から終電まで付き合ってくれた。
正直、僕は超ヘロヘロでした(笑)。でも体力的な疲れと精神的な疲れはイコールにならない。

安藤 体が疲れても、気力はどんどん強くなっていく。

丸若 子どもに戻ってるんだよね。子どもって気力で生きてるでしょ。寝る寸前までギラギラしてるけど、コトッと倒れるのが子ども。
この数日間は、丸若屋のスタッフ全員がその状態になっていた。
だから、東京に戻ったらエネルギーの使い方のバランスが取れるのかという不安が大きいです。

安藤 高知で過ごした感覚のままで東京に行くと、最初は3日しかその空気感がもたない。
次の時は1週間、その次は1ヶ月……というふうに増えていって、私は今ではどこに行っても高知の感覚になれるよ(笑)。

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————いつでも高知の空気感を背負っていられるんですね。

安藤 でも「高知が」とは言っているけれど、「高知」のように何かを象徴的に取り上げることが嫌になることもあるかな……。

丸若 ちょっとめんどうだね。

安藤 うん……高知に移住したことをもっと普通の、当り前のことにしたい。
それが当り前であり続けられるために、いろいろな事をしていかなきゃいけないね。

丸若 高知とか東京とか、できるだけ区切りたくないよね。どこにいても繋がっている感覚でいたい。
この間、安藤さんとは高知に来るためのミーティングをパリでしたよね。
僕たちはパリにいながら高知のことを真剣に考えていて、心は高知にいる。
その状態を突き詰めていくと、最終的に、パリにいるのにここは高知だと思い込むという境地に辿り着けるんじゃないかな(笑)。

安藤 そんな状態になれば、時間も距離もあまり感じない。ただ、「今」しかない。海外に行こうが東京にいようが……

安藤・丸若 関係ない。

安藤 うん。今はインターネットもあるし、それができる時代になりつつある。
まあインターネットはあくまで道具でしかなくて、人間の内にあるもので時間や距離の感覚を外していくことがすごく大事。
でもそれができるということに気づけたのは、高知に移住したからなんだよね。
だから丸若さんみたいに、日本の良いものや、多くの人が昔から素晴らしいと思ってくれているものの原点を感じてほしい。
そのためには、「日本人として」というアイデンティティを実感しないと無理なのかな。

———そこで最初の話に戻りましたね!

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ポップアップオフィスin高知はもうやらない。次は高知に定住

———ポップアップオフィスin高知を実施してみて、今後はどうします?

丸若 ポップアップオフィスin高知を開催した理由に、安藤桃子の「高知いいよ!」という意見を一般論にしたかったというのもあるんです。
彼女は、高知の魅力に気づいちゃったら伝えたい!という気持ちがあるけれど、発信力があるぶん「私が好きなここ良いでしょ」と自分が主役になってしまう可能性もある。
それはすごくジレンマになっているんじゃないかなと、僕は勝手に思いました。
逆に、僕がどれだけ「高知かっこいい」って言っても誰もYESって言わないんだけど(笑)。

安藤 そんなことないでしょ~(笑)。

丸若 だけど僕は、一般論にすることならできるかなと思った。
「高知いいよね」と言っている人が複数形になれば、当り前になっていく。
そのために丸若屋のスタッフを絡ませたりして、高知に関わっていく人を増やしていきたい。
だから、ポップアップオフィスin高知はこれでおしまい。次は定住なんです。

安藤 ポップアップオフィスじゃなくて、フィックスオフィスだ。

丸若 そう。今回の高知滞在は、そのための基盤作りでもありましたね。



「今後は高知にも拠点を持ち、日本と世界を繋げていきたい」と丸若さんは言う。

彼にはこの“なにもかもがパンチとエネルギーに溢れていて、人によってはしんどくなるかもしれない場所”が合っているのかもしれない。

高知と、そして親友・安藤桃子さんとの共鳴に勢いを得て、丸若屋はさらに質の高い「日本という価値」を世界へ発信していく———。



撮影協力:牧野植物園、高知県須崎市須崎港

Interview/Text: 河野桃子
Photo: 深田名江(人物)

安藤桃子

あんどう・ももこ/1982年東京生まれ。高校時代にロンドンへ留学、ロンドン大学芸術学部を卒業後、NY大学で映画作りを学ぶ。2010年、『カケラ』で監督デビュー。2011年秋に初の長編小説『0.5ミリ』を出版し、2014年に自身が監督して映画化した。同作では第69回毎日映画コンクール脚本賞、第36回ヨコハマ映画祭監督賞等数々の賞を受賞。第18回上海国際映画祭アジア新人賞では最優秀監督賞を受賞した。

丸若裕俊

まるわか・ひろとし/株式会社丸若屋代表取締役。プロダクトプロデューサー。プロジェクトプランナー。
アパレル勤務などを経て、2010年に株式会社丸若屋を設立。伝統工芸から最先端の工業技術まで今ある姿に時代の空気を取り入れて再構築、視点を変えた新たな提案を得意とする。14年、パリのサンジェルマンにギャラリーショップ『NAKANIWA』をオープン、日本の手仕事の魅力を発信している。

http://qreators.jp/qreator/maruwakahirotoshi

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