ナノアーキテクトニクスが開く未来の扉を見にいこう! —ニコニコ学会βサマーキャンプレポート

2015.9.24

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8月8日、9日に開催されたニコニコ学会βサマーキャンプ。
2日目の最後の見学先は、国立研究開発法人物質・材料研究機構内にある「国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)」。ガラス張りの真新しそうな建物内で行われている研究は、まさに生活を一変させる可能性のある未来技術そのもの。
「ナノアーキテクトニクス」とはどんなものか。MANA主任研究員の有賀克彦さんにお話を伺い、弊社クリエイターでもある産業技術総合研究所主任研究員・メディアアーティストの江渡浩一郎様ご協力のもと研究所施設内をご紹介いただきました。

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ナノテクノロジーの限界を打破するナノアーキテクトニクスとは

ーーナノアーキテクトニクスとは、どういうものなのでしょうか?

有賀 まず、ナノテクとは何か分かりますか? ナノというのは10億分の1のことです。ナノレベルで物をコントロールするということを分かりやすく説明すると、月から地球上にあるひとつの野球ボールを操っているような世界です。どれだけ小さいか想像つきますよね。

ーー途方もない世界、という事だけは分かりました。それだけ小さいものをいじる事ができれば、科学技術が大きく変わりそうな気がしますね。

有賀 では、小さくするとどんないいことがあるでしょうか。まずは、今までの小さくしていく技術を考えていきましょう。マイクロテクノロジーと言われていますが、大型だった機械を小さくまとめることで、人間がそれらを持ち運べるようになりました。皆さんの持っているスマホがそうですね。昔は電話は持ち運べるようなものではなかったので、電話をかけるにはまず電話機を探さなくてはいけなかった。しかも、電話をしたい相手も電話の傍にいるとは限らない。そうなったら連絡が取れませんでした。でも、今は違いますね。どこでも電話ができるし受けてもらえる。だんだんと電話のような機械を置いている場所に制限されない行動を人間が取れるようになったんです。
また、小さければそれだけ材料が少ないので資源を減らさなくて済み、さらに、小さいコンピュータの普及で、移動せずとも遠方同士でも仕事ができたり、コンタクトが取れることで渋滞や混雑の緩和にもつながります。今よく問題になっているPM2.5といった大気汚染も、非効率にエネルギーを使っているゆえの公害です。高い技術で効率的にものをつくれば、ああいった公害も出なくなります。つまり「小さいから便利」というだけじゃなくて環境問題にも貢献するのがナノテクなんです。

ーー意外なところにも繋がっていくんですね。機械の小型化が省エネになるなんて。

有賀 ただ、小さくしていくナノテクはもう限界だと言われています。これ以上小さくできない、削れないというところまで研究されてしまったんです。そこで、新しい発想が重要になります。削るのではなく、小さい原子や分子を集めていくという逆の発想です。もともと大きいものを削って小さくするのではなく、元からごくごく小さいものを集めて新たな特性を持つ物を作り上げる。それが、これから大事になってくる技術なんです。これを「ナノアーキテクトニクス」と呼びます。小さいものを集めて建築するように築きあげていくもので、ナノテクノロジーの限界を打破するのがナノアーキテクトニクスというわけです。ナノというとマイクロテクノロジーをさらに小さくしたものと思いがちですが、そうではありません。新しい機能の発見や新しい物質を作り出していくものなんです。

ーー有賀さんの分かりやすいお話のおかげで、概要がつかめてきました。ナノアーキテクトニクスはナノの世界で物質を研究したり、制御したりすることによって新たな性質の物質を創り出し、私たちの生活や地球の環境にとってより良い未来にしてくれるものなんですね。

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ナノテクノロジーの進化による私たちへの影響

ナノスケールで原子をコントロールすることで私たちの生活はどんな恩恵を受けるのか、そこには無限の可能性が秘められています。
例えば、がん治療。
現代の制がん剤は優秀で、がんの治療にはとても有効なんだそうです。けれど、がん細胞に有効な薬でも、その周囲の正常な細胞にもダメージを与えてしまうため、制がん剤の治療は患者さんへの副作用の影響をうかがいながら、ちょっとずつ進めていくしかありません。がん細胞を駆逐するより患者さんの限界が先にきて、制がん剤治療を止めざるを得なくなってしまうことも多いようです。
しかし、ナノテクによってがん細胞にだけピンポイントで薬を届けられるとしたらどうでしょう。周辺の正常な細胞には毒となってしまう薬をふれさせず、局所的に薬を届けられれば、今より思い切った治療ができるようになります。さらに、ナノテクの技術を積み重ねていくことで、がん診断にも活かすことができるそうです。がんを患っている人の呼気にだけ反応するセンサーは既に実現間近にまできています。他にも微細な放射能の検出など、ナノテクの活躍の場は実に広く、多岐にわたるのです。

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国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)を見学!

実際に、MANAでナノスケールの技術によって行われている研究の一部を見学させて頂きました。まずは物質・材料研究機構の樋口倫太郎さんの案内で研究室へ向かいます。たくさんのモニターやケーブルに囲まれている室内では、ナノサイズの針をつかってナノチューブやナノシートなど、新しいナノ物質の原子の一個一個に電流を流し、電気抵抗を観察することで、ナノ物質の組織や構造を解明する研究をしています。

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部屋の真ん中にあるアルミホイルにつつまれた大きな銃のような形の機械は、超高真空タイプのSTM(Scanning Tunneling Microscope)。観察対象の物質と針の間の電流を見て、物質の表面形状をナノスケールで観察することができます。ここで2日に1回ほどの割合で実験を行い、ひとつの材質サンプルに対して何か月も実験を続けることもあるそうです。加える電圧を変えたり、同じ電圧でも何度も繰り返して再現性を取ったりしなくてはならないそうです。研究は、時間と労力を惜しんでいてはなし得ないものだと改めて感じますね。

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機械エンジニアもかかわる最新DNA研究

次に向かった研究室はガラっと変わり、試験管やビーカーがたくさん並んだ理科室を思わせる一室です。ここで研究をしていらしたのは与那嶺雄介さん。DNAを人工的にプログラムしてできる面白い構造体(DNA折り紙)に力を加えて動かすことを研究しています。部屋の隅にはドラフトという装置がどんと置かれています。有機化学的な方法を用いる際、有毒なガスが出ることもあるそうで、その時に人間が吸ってしまわないようにガラスに隔てられた装置の中で作業をするのです。ドラフトの中で生成された有毒なガスは上部から排出されるようになっています。
最先端の科学技術でも、現場では与那嶺さんのように自分の手でフラスコを混ぜ合わせたり、熱を加えるために市販のドライヤーを使ったりとローテクで行われているのだそうです。そうやって手作業でDNAをプログラムし作り上げて、さまざまな実験に用いられています。

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与那嶺 DNAをプログラムする段階で、「こういう刺激にはこんな風に反応させたい」というコントロールを研究しています。私の研究は力を加えた時の反応を制御するもので、今はバイオ関係の人達だけではなく、機械を作っているエンジニアの方々もこういう研究に関わってきています。例えば、私の共同研究先は航空関係の機械の研究室です。このように、機械を作る人達がDNAを使い始めてきています。DNAのイメージとはかけ離れたような全く別の分野からも参入してきていて、非常に学際的な研究になりつつあります

ーーナノスケールでの研究は、活用される場がとても幅広いですね。初めに有賀さんがおっしゃったように、新たな物質をつくる技術があれば、人の生活や限界がどんどん作り変えられていきそうです。病気治療や新しい素材の開発、環境問題の改善に留まらず、今は「これで当たり前」と思っていることも数年後や十数年後にはガラリと違う「当たり前」が生まれていると思わせてくれる研究施設でした。

Interview/Text: 藤井千尋
Photo: 保田敬介

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