平和への思いをダンスに込めて。振付師と映像作家が作る、社会に対する新しいかたちの「デモ」

2015.8/15

Sheiwanoniji

振付家ユニットHIDALIのコリオグラファー(振付師)・野口量さんと、クリエイティブチームIKIOIに所属する映像作家・二宮“NINO”大輔さんが、IKIOI×HIDALIの作品として制作した、「平和の虹(Peace Rainbow)」。

これは、長崎の平和祈念像の前に長崎市民の方々が70人以上集まって撮影されたムービーで、8月9日の長崎原爆忌に公開されました。
これまでのHIDALIの作品とは趣を異にしており、手話と歌をモチーフとした表現が静かに心に響きます。

なぜ今回、このムービーを制作したのか。背景や意図を、制作者のおふたりにうかがいました。

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小3の女の子が、自分から参加したいと申し出てくれた

「平和の虹 'Heiwa no Niji' (Peace Rainbow)」(Youtubeへリンク)

――まずは、なぜこのムービーをつくろうと思ったのか、という始まりの部分からおうかがいします。

野口 僕は長崎に友だちがいて、以前から平和祈念像に興味があったんです。
像が建てられた1955年当時は、まだ被爆者の方々への医療費の支援などはなされていなくて、お金をかけて像を建設することに対する疑問の声もあったそうです。
そういった複雑な背景も持ちつつ、今は長崎市民に愛されているこの平和祈念像の前で、いま一度、世界の平和を願うメッセージを発信したい。
そう考えてまず、ニノさん(二宮監督)に声をかけたんです。

――それはいつ頃のことでしょうか。

野口 7月の後半ですね。撮影の2週間くらい前でした。

――それは急ですね……!

野口 ずっと作品をつくりたいという思いはあったんですけど、忙しくて全然進められていなくて……。
別件の打ち合わせでニノさんに会った時に、勢いで「平和祈念像の前で、平和のメッセージを伝える作品をつくりたいんです!」と相談しました。
ニノさんが「やりましょう」と即答してくれて、そこから急ピッチで企画を進めました。

――二宮監督が、この話を引き受けてくれるという確信はありましたか?

野口 正直、あったんです。ニノさんは納得しないと動かない人だけど、このテーマは納得してくれるだろうなって。
ものすごく忙しいのに「やりましょう」と即答してくれて、改めてすごい人だと思いました。
僕だったら考えちゃいますよ。だって、長崎までの交通費とかけっこうかかりますし(笑)。

二宮 大変でしたね(笑)。このムービーは本当にいろいろな幸運が重なって、実現した作品なんです。
例えば、平和祈念像のまわりは8月9日の式典のために工事してると聞いていたんですよ。
事前に送ってもらった写真でも、像の両脇が鉄パイプで覆われていてまさに「工事中」という感じでした。
でも、当日行ってみたら工事は終わって、鶴のオブジェができあがっていたんです。

9heiwa no niji

――最後の全員並んでいるカットに映っていましたね。

二宮 そうなんです。ちょうどすごくすてきな感じになっている状態で撮影できました。
スタッフも、最初は僕1人で撮影するつもりだったんです。でも、前日に一緒に仕事をしてた人が来てくれたり、現地に偶然来ていた知り合いを誘ったりして、蓋を開けてみたら3人体制に。
あとは、ラストカットを撮り終えたとたん、広場に観光客の方が観光バスから集団で降りてきて(笑)。撮影どころじゃなくなった、なんてこともありました。

野口 本当はもう少し撮影時間があるはずだったんですが、あれはびっくりしました。早い段階で撮っておいてよかったですよね。

――いろいろな偶然に助けられて完成した作品だったんですね。

野口 そもそも実現できるのかどうかわからないくらい、困難だらけでしたからね(笑)。まずは平和祈念像前での撮影許可がおりなくて……。

二宮 諦めかけましたよね(笑)。申請を出した時は像のまわりは工事中だから、貸すことはできないと言われました。あと像の作者の権利問題とか、いろいろ他にも壁があって。
でも粘り強く交渉していたら、直前で許可が出て撮影できることになったんです。

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――このムービーにはたくさんの方が出演されています。皆さん長崎市民の方々なんでしょうか?

野口 そうです。長崎でダンススクールをやっている友人が、たくさんの人に声をかけてくれました。世界の平和を祈ってくれる人、ということで募集したんです。
当日の撮影は、朝5時スタートでしたし、何人来てくれるのだろうと不安でした。でも、けっきょく目標としていた70人より少し多いくらいの人数の方が、集まってくださいました。

二宮 この作品は子どもからお年寄りまで、男女ともにいないと成立しないと思っていたので、本当にいいバランスで集まっていただけました。
印象的だったのは、お母さんと参加してくれた小学校3年くらいの女の子。小さい頃からおばあちゃんの原爆体験などを聞いていたそうで、親に言われたからではなく自主的に「参加したい」と言ってくれたんだそうです。
平和に対する思いが、世代を超えて受け継がれているんだなと実感しました

3heiwa no niji
手話も、気持ちを伝えるダンスになる

――なぜ、今回は手話と歌にしたのでしょうか。

二宮 これに決定するまでいくつも案が出てたんですよ。ダンスするとか、何もしゃべらず立ってるだけの表情を撮るとか。
最初はどこかにおもしろさを入れていこうとしていたんですが、変に凝りすぎた映像づくりをしても伝えたいことが伝わらないと考えました。

野口 そして、いくつか出た案の中でも手話が一番、メッセージがストレートに伝わると思ったんです。

二宮 手話に賛成した理由は、ひとりでも多くの人に見てもらいたいからですね。手話を入れることによって、手話ならわかるという人にも見てもらえますから。

野口 今回はリアルを追求するというのがテーマでした。だから、当日もそんなに振りをつけたりはしていないんです。ただ、手話指導の方から教えていただいた動きを、わざとらしくならないようにやってもらうよう心がけました。
僕は、「これは演技ではなくて、ハートから思いがあふれてやるものなんだよ」と真剣に意図を伝えたり、自分でダンスを踊って見せて場を和ませたりと、動きというより心の向きを揃えるようなことをしていました。
笑いながらとか、目をつぶって心を見つめながらとか、いろいろ試してもらって、一番気持ちを込められるやり方をとってもらった。本番で目をつぶるかつぶらないかは、本人に任せました。

――手話もダンスに含まれるのでしょうか?

野口 僕のイメージするダンスって、止まってるだけでもダンスなんです。実際、ずっと動かないという振付をすることがあります。
そういう意味では、手話も十分ダンスになる。みんなが平和というものを思って気持ちを込めてやると、ただの手話ではなくダンスとしての手話になるんです
今回のダンスの役割というのは、心をひとつにして、そのエネルギーが動画で伝わるようにするというところにあります。

――音楽を湯澤かよこさんの「愛のうた」に決めた理由は?

野口 最初はストリングスとピアノのインストゥルメンタルでやろうかとも思っていたんです。でもちょっと違うなと。

二宮 それでいうと、テクノという案もありましたね(笑)。

野口 そうだ、一瞬出ましたね(笑)。

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二宮 クリエイターとして、人と違う、今までにないものをつくりたいという発想から、あえてテクノとかヒップホップを使ってみるのはどうだろう、という案が出たんですけど、いやちょっと待てと(笑)。
今回のようなテーマは、ストレートに伝えるべきだという考えに戻ってきて、そこで湯澤さんの曲が候補に上がった。

野口 この歌は特定の誰かというのではなく、大切な人、物、自然……すべてに対する愛を歌っていて、世界規模の平和というテーマにしっくりきました。
そして、手話をしながら歌を実際に歌ってもらうことで、気持ちがぐっと入るというところも、狙いとしてありました。歌うことでみんなの気持ちがひとつになるんです。湯澤かよこさんからもメッセージを貰っているので紹介しますね。

「大切な人、大切にしたい風景、人はそれを想うとき、心からあたたかくて優しい気持ちがあふれてくる。そういう気持ちを愛と呼ぶんじゃないかなって。平和と言ってもスケールの大きなことということではなく、目の前の人を大切にするということが、平和に必ずつながっていくと思う。憎しみや嫉妬の連鎖ではなく、優しさと勇気の連鎖で、一人ひとりが住んでいる地球を愛しく思えますように。そんな気持ちを込めて、私も歌っていきます」(湯澤かよこ)

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デモに感じた違和感。自分なりの平和への思いをムービーに込めた

――このムービーの制作を通して、どんな思いを抱きましたか?

二宮 一言で言うと、やってよかったです。
僕は、量さんからこのムービーの話をもちかけてもらったときに、「やりましょう」と即答しました。それには、理由があるんです。
国会前で10万人といわれる大規模なデモ行進が行われましたよね。そのデモ活動の初期メンバーがもともと友人で、参加しないかってよく誘われていたんです。でも、僕はその問題について詳しくないからと、断っていました。
そうしたらその友人に、「詳しくなくたっていい、デモに参加してから興味を持ってくれてもいいんだ。デモに限らずどんなことでも、何かを伝えたいときは、まず行動することから始まるんだよ」と言われました。

野口 うん、うん。

二宮 それがずっと心のなかにあったんですよね。だから、量さんから話をもらったとき、平和について伝えたいという思いはもっていたので、原爆について詳しいわけではないけれど、とにかくやろうと思ったんです。
そしてやってみて、やっぱり行動してよかったと思いました。今までの自分だったら、8月9日を「原爆が落ちた日か」と、テレビを見てなんとなく意識するだけだったでしょう。映像作家として、平和への思いをかたちにして伝えられて、よかったです。

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野口 僕自身、デモ行進に参加したことあるんですよ。社会問題に対して真剣に考えて、声を上げるというのは悪いことではないと思うんです。
でも、そこでちょっと違和感があったんですよね。それは、「危ないですよ」「押さないでください」と言いながら警備をしている警官隊の方に向かって、デモの参加者が「うるせー! バカヤロー!」と怒鳴っていたこと。
いや、テンション上がりすぎちゃってるんだろうけど、それはちょっと違うだろうと。

二宮 警官隊の人も仕事でやってるのにね。

野口 そうなんです。で、僕には同じメッセージを伝えるにしても、デモで「バカヤロー!」って言うことじゃなくて、もっと違う方法があるんじゃないかなと思いました
それは、日本だけじゃなくて世界規模で平和を祈ること。それを、世界に向かって発信するということだったんです。

――最後に、このムービーを見た人にどんなことを伝えたいですか?

二宮 僕がこのムービーをつくるという行動に出たように、平和でも、他のことでもいいから、行動して何かを伝える人になってほしいですね。
なぜ自分がこの仕事をしているかと振り返ると、何かをかたちにして、人に見てもらうことが楽しくて始めたはずだったんです。でも、ちょっとでもテーマが重くなると、踏み込むのを躊躇してしまっていた。だけど、そこはテーマがなんであれ、避けずに伝えていくべきだと思いました。

野口 僕がコレオグラファー(振付師)として伝えたいのは、平和のようなテーマだって、ダンスで伝えられるんだということ。
ダンスは昔よりビジネスとして確立されてきていて、社会的に認められてきていると感じます。でも、それはまだエンターテインメントの分野でのことです。
本当は、何かを伝えるときにダンスをするという方法もあるはず。歌が愛や友情や祈りの気持ちを込めて歌われるように、ダンスもいろいろな感情、メッセージを伝えられるんです。この考え方をもっと広めていきたいですね。

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「平和の虹 'Heiwa no Niji' (Peace Rainbow)」

監督:二宮“NINO”大輔(IKIOI)
振付け:野口量(HIDALI)
コピーライター:小藥 元
シンガー:湯沢かよこ

Interview/Text: 崎谷実穂
Photo: 大根篤徳(人物)

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二宮“NINO”大輔

にのみや“ニノ”だいすけ
映像ディレクター。1982年生まれ。2010年にクリエイティブチームIKIOIを結成。SMAPや安室奈美恵、三代目 J Soul Brothers from EXILEなど、有名アーティストのMVなどを多数手がける。

http://www.ikioijapan.com

野口量

のぐち・りょう
コレオグラファー(振付師)。1980年生まれ。2013年に振付師ユニット「HIDALI」を発足し、代表を務める。ヒト、モノ、オト、コトなどを「動かす(振り付ける)」ことによって引き起こされるリアクションをつくる、動きのプロフェッショナル。

http://qreators.jp/qreator/hidali

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