リスクは「ヘッジ」するのではなく、「取りにいく」もの【後編】

2015.7/10

Hakunetu titlekyoiku

1回目2回目に続き、東京大学附属世田谷小学校教諭の沼田晶弘さん、現ラグビーU20日本代表監督の中竹竜二さん、株式会社クラウドワークスの代表取締役社長 兼 CEO吉田浩一郎さんにお話しを伺いました。
多くの組織で悩みの種となっている挑戦できる人材の不足。それぞれの分野の第一線で活躍しているお三方は、どのように未来を拓く挑戦者を育てているのでしょうか?

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子どものころから「社会は不公平だ」と教える

——人間として、自立するためにはどんなことが必要だと思いますか?

吉田 今から3年前、1度目の起業を失敗して、社員も離れてひとりぼっちになった37歳のときにようやく気づいたのは、「社会とは不公平」ということと、「人と人は究極的には分かり合えない」ということ(笑)
この事実を10代で知っていたら、もっと早く自立できたと思うんです。社会とは不公平だということを受け止めた上で、どう努力や工夫をしていくか。人と人とは分かり合えないから、人に依存しすぎてはいけなくて、自立した上で他人と接する必要があるとかを教えてほしかったなと。
不公平とか自立って、どうやって教えていけばいいんですかね?

中竹 僕は「何事も不公平だ」と言っていますね。
選手選考の際も平等じゃないし、不公平が当たり前で、そことどうやって向き合うかが大事だと伝えています。

沼田 僕も小学生に「世の中は不公平だよ」と伝えます。

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吉田 小学生にですか!?

沼田 はい。福沢諭吉もそう言ってるからね、って。

吉田 どういうことですか?

沼田 福沢諭吉の『学問のすゝめ』って冒頭の有名な一文、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずといへり」。
人間の平等性を語っているように見えますけど、実際はその後に、「平等だと言われているのになぜ不平等が世にあるのか? それは勉強してる人と、勉強していない人の差である」と言ってるんです。

吉田 勉強になるな〜!

沼田 だから僕が教えているのは、「世の中は平等ではないことがほとんどだけど、どんな人にも唯一平等なのが時間。だったら限られた時間の中で、自分が得意なところを探して、そこを伸ばしていくかどうかが人の差になる」と伝えています。

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「決断する」ことと、「判断する」ことはまったくの別物

吉田 先ほどの沼田先生の「卑弥呼についての仮説をたてる」取り組み(前回の記事より)を聞いて思ったんですが、「世の中には正解がない」というのも教育ですよね!

沼田 誰も答えなんて持ってないから、何でもいいんですよね。卑弥呼が美白でも(笑)

吉田 本当にすばらしいと思います!

中竹 僕も選手たちに、「判断することと決断することは違うよ」という話をよくしています。
判断は正しいか、正しくないか。一方で、決断は未来のことを決めること。
多くの人は未来のことに、どちらが正しいか判断しようとして迷っているんですけど、正しいかなんて誰にも分からないし、正解はない。
腹を括って決めるしかないんですよね。

吉田 弊社の新入社員でも、失敗を恐れて挑戦できない傾向があったりしますね。
能力的には優秀なものを持っているのに、入社してから一ヵ月半、まだ失敗を一度もしていない。つまり、チャレンジをしていないということなんですよね。これはどうしようかな、と思っているんですよね。
……なんか、私の相談室みたいになってますね(笑)

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社会は「リスクを取る場」を用意すべき

沼田 僕はリスクを徹底的に教えていますね。

吉田 リスクを教える?

沼田 小さい話ですが、たとえば、給食がカツカレーだった時にカツが一枚余った。その時に、カツを食べたい人はいるかと手を挙げさせる。そして、挙手した子どもを集めて、じゃんけんをするか、平等に分け合うかどっちがいいか考えさせるんですよ。
その時に、じゃんけんをして、負けたら食べられないリスクはあるけど、そのリスクを冒してでも勝てば一人で食べられるチャンスを得ることができる。
これが「リスクを取る」ということだ、ということはよく言ってますね。

中竹 子どもや今の若者が「挑戦しない」ということを、責めてはいけませんよね。
おそらく彼らは成長過程の中で、リスクを背負う機会を得てこなかった。失敗したら怒られるような環境だったら、もう挑戦しなくなってしまいますよね。
だから、そうした機会を学校やスポーツ、企業の中において用意していく必要があると思います。

吉田 確かに、そうですよね。今の時代、みんな「どう見られるか」を意識しすぎてチャレンジしなくなっているような気もしてます。
失敗したら、すぐに回りに広まってしまうからと、挑戦に対する牽制機能が働いているというか。
新入社員同士で競わせる場面を設けていきながら、リスクを恐れない訓練や勝つために考える練習をしていくとよいのかもしれませんね。

沼田 はい、そう思います。僕は、小学生だからって小学生らしい型にはめ込むことはしたくないんですよね。
たとえば、勝負といって運動会をやるなら、徹底的に勝つことを考えさせたい。スポーツでは「フェイント」というものがありますよね。小学校教育の「正々堂々と戦おう」みたいな概念からいくと、「だます」ということにも捉えられるわけです。
しかし、私は「勝負は勝負だ」ということを伝えたい。勝つための最善策を考え挑戦した姿を誉めるべきです。

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へこたれないタフさ。究極、これさえ身につけばいい

中竹 そうですね。だから、矛盾に直面したり、挑戦して失敗したりしてもへこたれないタフさを育んでいくことが必要ですよね。
このタフさを身につけさせられたら、もう教育は完成だと思います。社会を生き抜いていけますよね。

沼田 中竹さんがおっしゃっていた失敗から学ぶということにつながりますね。
失敗しても何度でも挑戦できるタフネスは本当に重要だと思います。私が大切にしている自己効力感も、失敗しても「自分ならばなんとかできる!」という自分を信じ抜くタフさだと言い換えることができると思いました。
そういう意味で、吉田さんは一度会社経営に失敗したけれども、立ち上がれたんですよね?

吉田 そうですね……生きていくのに必死だったとも言えますが(笑)
さっき言った1度目の起業での失敗のとき、37歳でマンションでひとりぼっち。「俺に残っているものは何だろう?」と思った時に、ふと通帳を開いてる自分の姿にハッとして。「これは寒っ!」と思いましたね(笑)
それで、このお金は手放さないと、もう自分の人生は残されてないなという気持ちになったんです。でも逆に、財産もすべてを賭けて、すべてをリセットした状態に戻れば、またイケるんじゃないかとも思ってました。
根拠はなかったんですが(笑)

沼田 どんなに崖っぷちに立たされても、「イケる」と思える。そうやって立ち上がれるところがやっぱり強さですよね!

吉田 諦めなかったことがよかったですね。
今日は、たくさんの教育のヒントをいただきありがとうございました。定期的に開催したいくらい濃い内容でした。次回は「クラウドワークスの経営相談室」を開いてもらいましょうか(笑)

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3回に及んだ、教育談義。
人を育てるというのは普遍的な課題だけれども、その都度求められる人材も変わったり、時代に応じてガラッと変わることもある。だからこそ難しく、永遠のテーマであり続けるのかもしれない。
それぞれの立場で人を「教育」する3名の話を聞けたことで、不透明な未来を支える、人材育成の道が見えてきた。
とても貴重な時間を、みなさんありがとうございました!

Interview/Text: 宮嵜幸志
Photo: 大根篤徳

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中竹竜二

なかたけ・りゅうじ/日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、U20ラグビー日本代表監督。
1973年、福岡県生まれ。93年、早稲田大学に入学し、同大ラグビー蹴球部に入部。4年次には主将を務める。2006年清宮克幸氏の後任として早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。全国大学選手権2連覇を成し遂げる。

http://qreators.jp/qreator/nakatakeryuji

沼田晶弘

ぬまた・あきひろ/国立大学法人 国立大学法人 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭、学校図書生活科教科書著者、ハハトコのグリーンパワー教室講師
1975年、東京都生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が話題に。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行う。

http://qreators.jp/qreator/numataakihiro

吉田浩一郎

よしだ・こういちろう/株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO。1974年、兵庫県生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニア、リードエグシビションジャパンなどを経て、株式会社ドリコム執行役員として東証マザーズ上場後に独立。ベトナムへ事業展開し、日本とベトナムを行き来する中でインターネットを活用した時間と場所にこだわらない働き方に着目、2011年株式会社クラウドワークスを創業、14年マザーズ上場。15年には経済産業省 第1回「日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞受賞。著書に『クラウドソーシングでビジネスはこう変わる』(ダイヤモンド社)などがある。

http://qreators.jp/qreator/yoshidakoichiro

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